コロナ禍やウクライナ侵攻によりフィンランドのスタートアップ業界も影響がでています。スタートアップ企業の成功はフィンランド経済と起業家精神を刷新してきました。スタートアップイベント「Slush」も2018年には東京でも開催され注目されました。 |フィンランドのスタートアップ企業の今

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Terve! フィンランドのスタートアップ企業の今

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フィンランドのゲーム「アングリバード」のRovio社や「クラッシュ・オブ・クラン」のSupercell社、最近ではフード・デリバリーのWolts社をはじめとするスタートアップ企業の成功は、フィンランド経済と起業家精神を刷新してきました。またスタートアップイベント「Slush」も2018年には東京でも開催され、世界の起業家たちの間では常に注目のイベントとされています。

コロナ禍やウクライナ侵攻によりこのスタートアップ業界にも大きな影響を及ぼしています。今回はそんなフィンランドのスタートアップ業界の今をお届けいたします。

フィンランドのスタートアップ起業は、革新的な現象とみなされているようですが、そのルーツは1990年代に遡ります。当時は、急成長するテクノロジーに関心のある人々を集めたデモシーンという位置付けぐらいだったものが、建築やデザインで有名なアアルト大学の学生の運営による非営利団体のスタートアップコミュニティが誕生。今では経済成長を生み出す革新的で高いスキルを持った活動とみなされ、イノベーションによって経済成長を生み出すという考え方の一つにまでなっています。

この成長の影には、老舗企業ノキア社の崩壊後のフィンランド経済に新しい方向性として、このスタートアップ起業が提示されたことにあります。

その提示により企業家精神として情熱と自己実現、そしてチームワークを鼓舞することが定着してきました。

現在フィンランド・スタートアップ・コミュニティ(FSC)団体が立ち上がり、100以上のさまざまな段階の異業種が集まって活動をしています。

最近このFSCによる初のスタートアップ・バロメーターが実施されました。四半期ごとに、スタートアップエコシステムで活動する企業や投資家が、自社や周囲の経済状況についてどのような見解を持っているかをマッピングしました。

バロメーターによると、スタートアップ企業は自らの成長の可能性に強い信頼を寄せているとの回答が多くみられました。しかし、周囲の経済状況については同様の信頼を見出すことはできないとの回答も多くみられました。ロシアによって引き起こされた周辺国としての治安悪化の懸念も、企業にとっては大きな懸念材料です。

回答したスタートアップ企業は、ここ数年で大幅に人員を増やしている傾向がみられる一方、なかなか適切な人材が確保できない状況であることも明らかになりました。

その半数以上は、熟練労働者の不足が事業成長の最大の障壁であると回答しています。「市場における熟練・専門家の競争は激しく、彼らを惹きつけるには、さまざまな手段に基づいて行わなければならない」とSupermetrics社のCEOであるThuneberg氏は話しています。

そして先月にはFSC主導の新しい目標を発表しました。この目標は、フィンランドの成長企業をはじめ、アーリーステージ(初段階)のスタートアップ企業を含む、コミュニティ内の約130社のメンバー企業から生まれました。

「私たちの最大の目標は、フィンランドを最高の人材が集まる世界一の場所にすること、そしてフィンランドがスタートアップ企業を立ち上げ成長させて、フィンランド経済を支える新しい中心的な存在に成長し、雇用と税収をもたらすことを目指しています」とFSCのCEOであるPakarinen氏は述べています。

目標の具体的な中身は、コンピテンスと研究開発、気候変動やヘルスケアへの技術による課題解決、プラットフォーム・エコノミーやブロックチェーンなどの法規制、税制上の優遇措置などありとあらゆる方面の目標が掲げられました。「2030年までに、フィンランドのスタートアップや成長企業が、輸出やGDPとの関係においても、森林や金属産業などの基幹産業と並ぶ国の新しい経済の柱となり、フィンランドの最重要な経済部門の一つになると考えています」とFSCの理事長であるAhopelto氏も述べていました。

世界中の経済や秩序がガラリと変わり始めた2022年。間もなくその半分が過ぎようとしています。

ウクライナ侵攻によって歴史的転換であるNATO加盟に至った小国家フィンランド。この国の生き残りをかけた経済構造の変化の一つに、スタートアップ業界が引き続き一躍を担うことは間違いなさそうです。

参照記事:
https://www.helsinkitimes.fi/business/21490-the-first-ever-finnish-startup-barometer-the-talent-shortage-is-getting-worse-but-confidence-in-growth-remains-strong.html

https://www.helsinkitimes.fi/business/21411-finnish-startup-community-s-goals-for-the-next-governmental-program-crypto-legislation-platform-economy-and-climate-startups.html

写真出典元:
https://businesstampere.com/tamperes-startup-community-the-power-of-input-and-output/

2022/06/05

海外だより:フィンランドより一覧

Terve! ウクライナ人受入れに積極的なフィンランド

ウクライナ避難民を受け入れるフィンランド

前回のコラムから1ヶ月以上が経ちますが、ロシアによるウクライナ侵攻は過度な緊張を増しており、ウクライナ人が続々と隣国へ避難しています。フィンランドもその隣国のひとつとして、ウクライナ人の受け入れを積極的に進めています。移民局によると、今年中には最大8万人の避難民者がフィンランドに入国すると推計しています。

しかし、国が異なれば言語・文化すべてが異なります。そうした背景を基に、この混沌とした情勢の中、フィンランドはどのようにウクライナ人を受けて入れていくのでしょうか。今回は、現在進行中のその様子を簡単に見ていきたいと思います。

2月24日にウクライナ侵攻が始まって以来、4月4日の時点ですでに1万5千人のウクライナ人がフィンランドでの一時的な保護を申請しています。この一時的な保護はEUの一時的な保護指令に基づいており、居住申請が登録され、その後労働許可証を取得することになります。

フィンランドには、このウクライナ侵攻が始まる以前から一定数のウクライナ人が移住しており、その家族や親戚宛に入国してくる人たちが多いです。

今まで移民・難民を受け入れてきたフィンランドですが、過去と大きく異なるのは、彼らの属性です。ウクライナからくる避難民者は、約85%が女性、40%が18才未満の子どもです。この中には高等教育(学士以上)を受けた女性たちが一定数いると推定されています。過去の受け入れですと、例えばシリア難民などは家族一家で難民してくるケースが主に多く、また基礎教育を受けていない人たちもかなりの数がいました。

それと比較すると、入国後の対応は今までのような対応とは別の形で行わなければなりません。

フィンランド移民局は早速、雇用手続きの迅速化、例えば滞在許可証の取得を1週間から10日早めるなどの対応をはじめました。滞在許可が降りた後の社会・福祉サービスをはじめ、子どもの教育支援、そして就労支援へとトータルなサポートが必要となっています。

社会福祉サービスは、緊急のヘルスケアや基本的な公共サービスは迅速に対応できますが、戦争関連のトラウマに苦しむ人々に対応できるようなサービスや専門家の不足を指摘しています。

子どもの教育支援は、18歳までの義務教育は受けられますがウクライナ人にとって「義務」とはしないことを前提としています。各地の大学などでは、本来であれば非EU加盟国であるウクライナは授業料を支払う必要がありますが、これを免除する制度に変更しています。また編入やオープン講座などにも積極的に参加できるような仕組みを整備しています。

そして一番難しいのが、就労支援です。ただでさえフィンランドの外国人労働市場があまり良くない状況のところ、早急に就労が必要なウクライナ人が入国してきたということで、雇用局をはじめとする担当機関やボランティアグループは、今までの壁を打ち破る良い機会と捉えるようにしているようです。

「Terve! フィンランドにおける外国人の労働市場は今」
https://www.rakuraku-boeki.jp/kaigai-dayori/finland-dayori/2021-10-26

雇用局は「過去の難民者とは違い、入国してくるウクライナ人は大卒の女性で幼い子どもを抱えている。この状況は育児支援の必要性や就労の観点から人身売買のリスクの高さを表している。これをフィンランドの労働市場にうまく組み込ませることを、フィンランドの全政党にコンセンサス取らせるようにしなければならない」と指摘しています。

フィンランドとウクライナは、大国ロシアを隣国に持つ者同志という根本的な部分があるからか、この侵攻が始まった時には直ちに、支援団体の結成や募金支援、緊急医療や食糧支援などさまざまな形の支援が出来上がっていたのが印象的でした。

まったく先の見通しがつかないこの情勢の中、一旦は母国を去ったウクライナ人たちが一刻も早くフィンランドでの生活に慣れてくれるよう、同じ移民として関心を持ち続け、微力ながらの支援を行っていきたいと思います。

参照記事:
https://yle.fi/news/3-12406093

写真出典元:
https://www.ts.fi/uutiset/5619803

2022/4/22

海外だより:フィンランドより一覧

Terve! 大国の脅威にさらされる隣国フィンランド

ウクライナを支援するフィンランド

2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻がはじまりました。ロシアの矛先はウクライナですが、国境を接し陸続きの隣国フィンランドの状況、国民の心情はどうでしょうか。今回は、世界が混沌としている中のフィンランドの今をお伝えします。

フィンランドは1917年にロシアから独立して今年で105年になります。その間冷戦やフィンランドのEU加盟などの際には、常にロシアに対してしたたかな姿勢で外交政策を取ってきました。

第二次世界大戦後に設立されたNATO軍事同盟には、反対側の隣国スウェーデンと共に非加盟国として存在していました。

しかし今回のウクライナ侵攻で、フィンランド国民へ世論調査を実施したところ、5割がNATO加盟に賛成していました。

実はこの侵攻以前からNATO加盟への気運は高まっていて、加盟申請に対する国民投票を求める署名運動が展開されていました。その結果、国会審議で必要な5万票を集め、国会へ申請することになりました。

こうしたウクライナ侵攻をきっかけに国民の心情の変化は、さまざまな形で顕著になってきました。

一つは、侵攻への抗議デモが毎週末フィンランド各地で行われています。

他にはウクライナの原発発電所区域が爆撃された翌日からは、フィンランド国内における放射線量の測定や、甲状腺保護のためにヨウ素剤の服用への懸念などが高まってきました。今のところこのような必要は全くありませんが、日本人が災害に備えるのと同じように、ここフィンランドでも有事における備えの一つとして象徴されています。

また以前このコラムでも紹介した核シェルターの利用も懸念されています。もちろんこちらも今のところ利用の懸念は一切ありませんが、一般市民としてはどこにあるのか、もし何かあった際には本当に利用できるのか、といった「備えあれば憂いなし」の雰囲気が広がっています。

「Terve! フィンランドの核シェルター人口の7割をカバー」
https://www.rakuraku-boeki.jp/kaigai-dayori/finland-dayori/2017-06-02

こうした国民の懸念を知ってか、フィンランド大統領は「国際社会が変化の真っ只中にいるとき、私たちは冷静さを保たなければならない」と話しています。

大統領にとっても、この10年間でロシアと幾度も話し合いを重ねてきましたが、やはり他国のあり方、そしてそれを統治する人間の心を理解するのは非常に難しいと述べています。

歴史的に支配されていたフィンランドは独立し、今までうまく外交政策を取ってきた背景から、フィンランドはロシアについてより理解がある国、と思われてきた部分があるのかもしれませんが、大統領のこの発言によれば、それは誤解であることがわかります。

フィンランドとロシアの関係は大きく揺らぎ、今までのような関係に戻るには、ロシアが大変革しなければならないという報道もあります。

ウクライナ侵攻から2週間が過ぎましたが、事態は悪化するばかりで、フィンランドの立場や役割も今までと大きく変わりつつあります。

次のコラムを執筆する時には、事態が落ち着いていることを切に願うばかりです。

参考記事:
署名活動について
https://yle.fi/news/3-12335563

国民世論調査について
https://yle.fi/news/3-12337202

ヨウ素剤について
https://yle.fi/news/3-12339880

ロシアとフィンランドの関係変化について
https://yle.fi/news/3-12336199

大統領ステートメント
https://www.presidentti.fi/tiedote/tasavallan-presidentin-lausunto-kun-muutos-on-rajua-paan-on-pysyttava-kylmana/

写真出典元:
https://de.dreamstime.com/helsinki-finland-demonstration-against-russian-aggression-ukraine-february-26-2022-detail4966

2022/3/11

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Terve! フィンランドの物価上昇はいかほどに?!

2022年フィンランドでは食料品が値上がり

コロナ禍の丸3年目の2022年が明けました。年末年始から世界中がオミクロン株に感染するなど、まだまだ油断を許さない感染症との共生生活が続いています。

そんな中、フィンランドでは年明けからあらゆる分野における価格が上昇しています。今回は一般的な日常生活における物価やサービス事情について紹介します。

2022年から値上がりの影響が最も大きいのは、食費です。

経済研究グループの予測によると、生産コストの上昇と不作の年により、食料価格は1.8%上昇するという調査結果が出ています。「フィンランドの食品価格の上昇は、2021年には約0.3%と緩やかだったが、年末に向けて指数関数的に上昇し始めるだろう」とし、この上昇は、消費者物価全体の上昇予測値よりも多いと予測しています。

背景には、不作と生産コストの上昇があるとし、特に石油、ガス、電力を必要とする、肥料、飼料、建設などのコスト高が要因と考えられています。またコロナ禍で物流コストにも負荷がかかり始めていることも要因であるとしています。

食費の他には、電気自動車の課税が変更になりました。

新車の電気自動車の場合は、購入時の自動車税が廃止されました。代わりに年間の自動車税として65ユーロが増税されることになりました。実際には、最初の課税査定日が2021年10月1日以降の車にすでに適用されています。嗜好品であるタバコにも増税されています。平均価格が11%上昇し、一箱の平均価格は10ユーロ強となっています。今年7月にはさらに増税され、2023年にはさらなる引き上げが行われる予定です。

逆に価格が値下がりしたものもあります。

パスポート発行費用を、警察署で申請する場合は、58ユーロから50ユーロに下がりました。電子申請の場合は44ユーロで変更なしです。

さらにはサービスがよくなったものもあります。

フィンランド国民が無料でがん検診を受けられるようになりました。60-68歳を対象に腸がん検診が、30−65歳を対象に子宮頸がん検診が受けられるようになりました。

また借地借家法が改正され、居住者が自分の所有地の運営について、より大きな発言力を持つことができるようになりました。フィンランドには、約5万戸の居住権付きの住宅があり、この制度は30年前から実施されています。

今後は、住宅所有者協会の理事会メンバーの40%が、その物件の居住者でなければならないという条件が付けられました。

こうして見てみると、世界中に影響を与えている食料価格の上昇が一番頭を悩ませています。現在の食料サプライチェーンが世界中に渡っていることも要因となって、フィンランドだけではなく日本でも、そして他国でも食料価格は上がる傾向にあります。

電気自動車の課税については、欧州の電気自動車政策の影響が大きいようです。2035年までにガソリン車とディーゼル車、さらには内燃機関とモーターを組み合わせたハイブリッド車も事実上、販売禁止という目標が背景にあります。

がん検診は、日本人からするとやや驚きの事実ですが、がん患者が世界中で一番多い日本と比べると、フィンランドにおけるがん検診がようやく始まったばかりと言えそうです。

今年中にはコロナが収束するという情報やデータがありますが、収束してもこの2年間の影響は計り知れず、私たちの生活における物価上昇の影響はこの先しばらく続きそうです。

参考記事:
YLE NEWS
https://yle.fi/news/3-12119278
YLE NEWS
https://yle.fi/news/3-12254046

欧州グリーンディール政策
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/331e9d95b330cf03/20200044_01.pdf

がん患者:がん早期発見推進協会
https://ecdpa.or.jp/world-cancer-died/

2022年コロナ収束?!:GateNotes(THE BLOG OF BILL GATES)
https://www.gatesnotes.com/About-Bill-Gates/Year-in-Review-2021

写真出典元:
https://yle.fi/uutiset/3-12245353

2022/1/31

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Terve! サンタの国フィンランドのクリスマス商戦

フィンランド、クリスマスプレゼント

フィンランド人にとってクリスマスは、年中行事の中で最も大切な行事の一つ。その中でもプレゼントは、なくてはならないもの。今回はこのクリスマスプレゼントにまつわる話しを紹介したいと思います。

商品価格の調査会社は、フィンランド人のクリスマスプレゼントに費やす価格を調べました。調査によると、最も一般的な金額は、50〜100ユーロ(回答者の21%)または101〜200ユーロ(20%)でした。

また回答者の8%はプレゼントを購入する予定はまったくなく、10%はプレゼントに50ユーロ未満しか費やしていません。つまりフィンランド人のほぼ5分の1は、50ユーロ未満のプレゼント購入、またはプレゼントを購入していないことがわかりました。一方で、回答者のわずか5%が、500ユーロ以上を費やしていることもわかりました。

そのプレゼントの平均的な購入日(期間)は、やはりクリスマス直前の週末。ただし、回答者の4分の1以上(27%)が、クリスマス直後から始まるセールにて商品の一部またはすべてを割引価格で購入することを計画しています。

近年の傾向としては、クリスマス商戦が始まってから、またはクリスマス中(12月24−26日)の土壇場で購入する人が増えています。ちなみに昨年は25日に最も割引された商品として、調理器具、Xbox Oneゲーム、デジタルカメラ、かみそりなどが含まれていました。

この調査会社の分析から、商品価格は早くも22日ごろから下落し始めるようで、それを待ち構えてプレゼントを購入する人が増えているようです。

一方で、フィンランドは手作り(DIY)文化が根強いので、手作りプレゼントを贈る人もいます。手袋、マフラーやニット帽など編み物グッズ、クッキーやケーキなどの自家製のお菓子などを作り、自分でラッピングも楽しみながらプレゼントを用意します。

さらにはLahjakortti(ギフトカード)も根強い人気商品です。商品や映画館、レストラン、スポーツジムなどの体験プレゼントは然ることながら、最近ではBtoBの企業で自社のサービスを利用してもらうという狙いで用意している会社もあります。

そして一人当たりのプレゼントをもらう数は、大人も子どももだいたい3−5個が平均的な数のようです。子どもの場合は両親、祖父母、ここに名付け親が入って3つ以上。大人は、パートナーや友人、両親・兄弟姉妹などから3つ以上と、この辺りは日本とさほど変わらないでしょうか。

しかしフィンランドのクリスマスとは、プレゼントの内容や金額、そして個数は関係なく、家族や大切な人たちと一緒に食事をしたりサウナに入ったり、今年一年を振り返ったり来年のことを考えたり、またご先祖へお墓参りをしたりするのが一般的です。

というわけで、今年一年お読みくださりありがとうございました。
まだまだコロナ禍が続きますが、どうぞウィルス感染などに注意してお過ごしください。

皆さまにとって良い年となりますように。
Onnellista Uutta Vuotta 2022!

1ユーロ=¥126.35 (12/21)

記事参照元:
https://www.is.fi/taloussanomat/art-2000008463381.html

写真提供元:
https://res.cloudinary.com/findance/image/fetch/w_680,f_auto/https://www.findance.com/kuvat/cloudinary/joululahjat-Snzs6.jpg

2021/12/21

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Terve! フィンランドらしい?!抗議の仕方

フィンランドの動物愛護の抗議グループ

日本でお馴染みのケンタッキーフライドチキン(KFC)が、首都ヘルシンキにオープンしました。開店当日、1番最初のお客さまに1年間分のチキンを無料提供するという情報を駆けつけて、3日前からテントを張って待っていたその人とは。

今回はフィンランドならではの光景を紹介します。

開店3日前からテントを張って待っていた人は「チキン・ラバー(鶏肉愛好者)」と名乗る男性でした。開店時間になると、この男性が「歴史的瞬間」とスピーチを始めましたが、その内容が動物の権利に焦点を当てたもので、つまりこの男性は動物愛護の抗議グループの一人であることがわかりました。

「私は自分の嗜好ではなく、何十億もの鶏やその他の抑圧された動物のために、ここでスピーチするために3日前から待っていました」と述べました。

その後、抗議グループの他のメンバー2人が「Love wins. Not wings(勝利を愛するが、鳥の羽は要らない)」などと書かれたTシャツを着て登場しスピーチを続けようとしたところに、警備員に退場させられてしまいました。

このKFC以外にも、ここ数年でファーストチェーン店が続々と上陸をしているフィンランドですが、食料のサプライチェーン上で発生する人権問題や店舗における労働環境問題に対して指摘する声が多くあります。今回もここフィンランドで提供する鶏肉は国産か輸入産か、また、グローバルなファーストチェーンよりは地元のレストランやカフェを支援すべきだ、などとオープン前から活発な議論が行われていました。

ちなみにKFCでは、動物愛護に関する5つのガイドラインを策定し、他のファストフードチェーンよりも透明性が高いと言われています。ただイギリスとアイルランドの自社製品に使われている鶏の3分の1以上が足皮膚炎(動物が正常に歩けなくなる痛みを伴う足の病気)を患っていることを認めています。

このような情報開示や昨今の気候変動問題を通じて、若い世代を中心にヴィーガン(菜食主義者)も浸透しはじめており、こうした店舗オープンに対する抗議も高まっていました。

ただ抗議の方法が、米国の抗議グループやスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのように組織やメディアに真っ向から対立するのではなく、鶏肉愛好者と見せかけておいて群衆が注目するオープン当日にスピーチを企む方法は、したたかさが垣間見られるフィンランド人の国民性だと、著者の目には写りました。

日本と比較すると、日本ではKFCは「クリスマスメニュー」の一つと捉えられている部分もあるかと思いますが、もちろんフィンランドではKFCとクリスマスは無関係です。また日本ではこのような抗議活動が展開されることは、まずほぼ皆無かと思われます。

グローバルなファーストチェーン店をひとつオープンするにあたり、フィンランドの反響は思いのほか大きく、そして著者にとっては改めて国民性を知る機会になりました。

参照記事及び写真出典元:
https://yle.fi/news/3-12184346

KFC, Citizenship Report 2020
https://www.yum.com/wps/portal/yumbrands/Yumbrands/citizenship-and-sustainability/reporting-and-disclosures

2021/12/02

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Terve! フィンランドにおける外国人の労働市場は今

フィンランドにおける外国人の雇用面接

コロナワクチン接種が対象者の約8割に届く状況となったフィンランド。10月からは、商業施設などは全て通常営業に戻り、リモートワーク推奨の制限も解除されます。それに伴い経済も少しずつ回復してきていますが、いまだに失業率が7.6%と他国に比べて高い割合になっています。

その中でも外国人における失業率が、外国人全体の27.5%に達しています。こうした状況を分析するためにフィンランドのエンジニアおよび建築業界のキャリア開発団体である「Tekniikan Akateemiset」が「移民の国際労働市場での地位に影響を与える要因を特定する」プロジェクト結果が発表されました。今回はフィンランドにおける外国人の労働市場の現状を簡単に紹介したいと思います。

この報告書によると、フィンランドの労働市場における外国人は、フィンランド人に比べて偏見、フィンランド語の過度な高レベルの要求、差別、資格や経験の認知不足、低賃金などが雇用の妨げになっていると指摘しています。このような要因を主に5つ特定し、それぞれに関する提言を発表しました。

1.「流暢なフィンランド語」が必須
多くの求人募集では「流暢なフィンランド語」という条件を目にします。しかし「流暢な」とは実際には何を意味するのでしょうか?全ての職種に「流暢さ」は必要なのでしょうか?また外国語のアクセントがあるだけで「流暢さ」には至らず、不適切なフィンランド語を話しているとみなされてしまうことがある、と指摘しています。

今回の調査では、雇用主が特定の仕事に必要な言語能力を適切に判断するためには、フィンランド国家言語能力証明書YKI(1-6)と欧州言語共通参照枠(A1-C2)のレベルの内容をもっとよく知るべきだと提言しています。

こうした求人広告における「流暢なフィンランド語」という条件は、外国人を雇用しないための言い訳である、とも指摘しています。

2. 海外で取得した教育や仕事の経験が認められない
外国人のスキルや資格が、採用プロセスや職場で認められないことはよくあることだ、と指摘しています。フィンランドでは母国や他国で培った知識や経験を基に職業に就いている外国人は少なく、全く新しい職業を学ばなければならなかったり、以前の職業について再教育を受けなければならなかったりする人が多くいます。

調査の過程では、外国人はスキルがないと思われていたり「フィンランド式の仕事のやり方」について教育を受ける必要があると思われていることが多い、ということがわかりました。外国人がフィンランドでの仕事の仕方を知らないという仮定は、フィンランド国外での教育や仕事の経験に対する差別的な態度を示している、とも指摘しています。

3. フィンランドで仕事の経験を積むための人脈や機会の不足
技術分野におけるフィンランド人と外国人の新卒学生を比較すると、仕事の経験や雇用に大きな違いがあることがわかります。
例えば仕事やインターンの経験があるのは、
フィンランド人新卒者:29%が2年以上、34%が1~2年の経験
留学生:4%が卒業時に2年以上、16%が1~2年の経験

実際、卒業時に就職活動をしている留学生の数は、フィンランド人の2倍にものぼると指摘しています。

4. 官僚主義
外国人にフィンランドへ入国し滞在してもらうためには、フィンランドへの移住や滞在のプロセスを簡易にしなければならないと指摘しています。滞在許可証の処理時間やビザの所得要件を引き下げるべきだと、具体的な提言も記載されています。

5. フィンランドの労働市場と従業員の権利に関する知識の欠如
フィンランドの労働市場は法律と労働協約に基づいており、従業員の権利が守られています。しかし外国人にとっては、自分の権利やフィンランドの労働市場のルールを知ることは大変な努力を必要とします。情報提供を行う言語をフィンランド語と英語の両方で提供することを提言しています。

このような要因は、技術分野(主にIT)に留まらず多方面から耳にし、実際に著者自身も経験したことがあります。個人事業を営む傍ら、言語のレベルアップを図ったり、自身の専門分野のレベルを維持したり新しいことを学んだりしても、フィンランドの労働市場へ参入するのは、そう簡単ではないと感じています。

フィンランドの大学で博士号や修士号を取得しても、残念ながらこの国で活かすことなく、日本へ帰国されたり近隣諸国へ移住したりという日本の留学生さんたちも今までに幾人もいらっしゃいました。

一見すると国際的に開かれた労働市場であるフィンランド、と認識しがちですが、意外にも内向的な傾向がみられ、外国人に対する労働問題は長年に渡って山積したままであるようです。

報告書:Immigrants’ integration into the labor market in Finland
https://lehti.tek.fi/english/language-requirements-prejudice-hinder-recruiting-immigrants

ニュース記事:Migrants suffer lower pay, prejudice, discrimination in Finland
https://yle.fi/uutiset/osasto/news/union_report_migrants_suffer_lower_pay_prejudice_discrimination_in_finland/12114024

失業率:Employment increased and unemployment decreased clearly
https://www.stat.fi/til/tyti/2021/08/tyti_2021_08_2021-09-21_tie_001_en.html

写真出典元:
https://www.thenomadtoday.com/articulo/work-in-finland/in-finland-it-is-hard-to-find-work-unless-you-have-contacts-according-to-foreigner-fi-readers/20200225085157004457.html

2021/10/26

海外だより:フィンランドより一覧

Terve! フィンランド人の徴兵制への参加

徴兵の申請を待つフィンランドの若者

前回の「フィンランドの若者に人気の職業とは?」の男性ランキングで3位に入った「国防・防衛」について、今回はフィンランドの徴兵制について簡単に紹介したいと思います。

「Terve! フィンランドの若者に人気の職業とは?」
https://www.rakuraku-boeki.jp/finland-dayori/2021-07-02

フィンランドの徴兵法により、すべてのフィンランド国民は国防に参加する義務を負っています。18歳から60歳までのフィンランド国民の男性は兵役義務があり、女性は任意で兵役を申請することができます。兵役義務者は、約6ヶ月から1年の間に、武装または非武装の兵役、または非兵役のいずれかを完了する必要があります。

18歳になった男性は全員、その年に召集令状に参加します。今年は2003年生まれの男性が対象となります。召集の際には、兵役への適性チェックとして面接が行われ、健康診断や兵役についての希望を聞かれ、それに基づいて兵役の開始日と場所が決められます。兵役に適さないと判断された場合は、兵役が免除され非兵役として非軍事的な市民福祉サービスなどの業務に就くことになります。

兵役では陸海空軍に分かれて質の高い軍事訓練を受けることができます。日常生活に役立つスキルやリーダーシップをはじめ、フィンランドの国土ならではのサバイバル(森などの自然との共生生活)スキルなども身に付けます。兵役を終えると、危機管理業務や軍人の専門職に応募することができます。

こうしたキャリアップを見据えた背景があるため、前回の人気職業で3位にランクインした理由がお分かりになるかと思います。

徴兵制に対する考え方はさまざまですが一般的に伝えられていることとして、フィンランドは小国家であり、どの軍事同盟にも加盟していないため、自国の領土を自力で防衛することが必要との考えが根底にあります。そのため、国防軍の準備態勢を整え、維持し、軍事的な国防任務のために徴兵制度を導入し、徴兵者を訓練しています。

フィンランドは過去に西側のスウェーデン王国、東側のロシア帝国に占領および支配された歴史的背景からも、この徴兵制度はやはり自力で防衛することを重要視していると理解できます。

この徴兵制度は、時代とともに進化しています。訓練システム自体は常に開発されていますが、召集される国民にとっても、理由があって兵役につかない人や近年では女性の兵役希望者も増えています。

今年2021年は、国内約250ヵ所で召集令状が予定され、約3万6千人の若者が参加する予定です。彼ら自身の選択によって将来どのような道が開かれるのか。この徴兵制度はフィンランド人にとっての人生の選択の一つとも言えそうです。

参考記事:

徴兵召集に関するニュース記事・写真出典元 
https://yle.fi/uutiset/osasto/news/defence_forces_calls_on_tens_of_thousands_of_young_men_for_conscription/12060387

フィンランド国防軍
https://puolustusvoimat.fi/en/finnish-conscription-system

2021/09/06

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Terve! フィンランドの若者に人気の職業とは?

フィンランドの若者たち

6月から長い2ヶ月の夏休みに入ったフィンランドの学生たち。この期間に高校生以上を中心にKesätyö(ケサ・トゥオ)という日本でいう夏休みのアルバイトを体験することが、将来の就職や自身のキャリアアップにつながると言われています。今回は、フィンランドの若者たちに人気の職業を紹介します。

フィンランドには、すべての若者が働くことに興味を持ち、自分でお金の管理や社会の一員として社会に関わることを支援する「TAT」という団体があります。このTATが今春、中学・高校・応用大学の学生約15,000人を対象に、将来の職業についての見解を調査しました。

その結果、男女ともに関心の高い職業分野は、
1位「ヘルスケア」
2位「メディア・コミュニケーション」
3位「文化・エンターテイメント」
4位「観光・飲食」
5位「小売業などの商業系」となりました。

男女別にみてみると、女子は
1位「ヘルスケア」
2位「サービス業」
3位「旅行・飲食」

男子は
1位「テクノロジー分野」
2位「建築・建設」
3位「国防・防衛」*

となりました。
*フィンランドは、主に男子18歳を対象に兵役制度があります。この制度を経験した後、国防・防衛関連の仕事に就くことを希望しているようです。

このようにヘルスケア関連の職業に男女ともに人気があるのは、フィンランドはEU加盟国の中で高齢化社会となるのが一番速いと言われている背景があり、このヘルスケア分野の職種の一つである保育士と介護士の2つの資格を持った「Lahihoitaja(ラヒ・ホイタヤ)」の需要が年々高まっていると言われています。

男女平等のイメージが強いフィンランドですが、今回の調査結果からは、依然として非常にジェンダー的(性別に偏った)であることがわかりました。女子は、サービス業を中心とした仕事ですし、男子は、テクノロジーや建設、物流・貨物輸送などの分野に人気がありました。

また普段の生活において情報やスキルを得る方法として、学校教育が最も一般的であることもわかりました。このほかに親や友人たちとの会話、読書や趣味を通じてとありますが、男子は、YouTubeやゲームから情報やスキルを得ているという回答があり、ジェンダー的かつ世代間の違いも現れていました。

さらには両親の教育的背景や雇用形態が、職業の選択や将来を考える上で強く影響することもわかりました。今回の調査では、大卒の親を持つ若者の81%が小学校卒業後に高等学校への進学を予定しているのに対し、職業資格(中卒・高卒・職業学校卒)を持つ子どもでは36%にとどまっています。また両親ともに働いていない若者の14%が、将来仕事を見つけられないと考えています。

現在フィンランドの失業率は7.6%で、昨年のコロナ禍よりは回復しましたが、人口550万人中でこの割合は依然として高い数値であります。そうした労働市場の背景も重なり、若者の職業選択は、昔に比べると早期から、そして親や友人からの影響も強くなっていると言われています。

コロナでヘルスケア分野の職業の需要も増えて、ますますこの分野の人気が高まることも示唆されていました。今夏は、コロナの変種株がヨーロッパ諸国を感染している影響で、まだまだ経済回復も鈍く全体的に停滞中です。

こうした社会背景の中、若者が将来に対して自分の能力に自信を失ってしまわないように、親や友人たちとワーキングライフについて語り、人生の幸福のためにその重要性を強調することが重要であると、TAT団体のディレクターは話していました。

参考記事:
TAT団体および職業調査レポート
https://www.tat.fi/tyttojen-kiinnostus-johtajuuteen-nousussa-perinteinen-sukupuolijakauma-patee-edelleen-tulevaa-alaa-valitessa/

フィンランドの失業率
https://www.stat.fi/til/tyti/2021/05/tyti_2021_05_2021-06-22_tie_001_en.html

画像提供元:
https://www.mtvuutiset.fi/artikkeli/nuoret-stressaavat-alavalintaa-ja-moni-pitaa-valivuoden-nuoret-eivat-odota-omannakoisen-elaman-alkamista-elakeikaan/7419096#gs.4gaone

2021/07/2

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Terve! フィンランドEU圏外からのオンライン注文に通関必須

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コロナ禍で世界中のオンラインショッピングの注文が急増している中、欧州議会(EU)は今年7月1日よりEU圏外から圏内へと輸入されるオンライン商品に通関手続きを実施する新しい規制を施行する予定です。今回はその規制や現状の郵便事情について紹介します。

現在、EU圏外のオンラインショッピングで買い物をして、その合計が22ユーロ以下の場合は付加価値税(VAT)が免除され、通関や関税の対象外となっています。しかし7月1日から施行される新しい規制ではこの免除措置が廃止され、価格の大小に関わらずすべてのオンラン商品に通関が必要となります。

現在アジアや米国のオンラインショップの大半では、すでにVATを直接支払えるシステムが構築されているところもあります。しかし、最終的なチェックアウト価格にVATが含まれていないオンラインショップで注文した場合、消費者は90セントのサービス料をフィンランドの郵便局(Posti)に支払う必要があります。

一方EUでは、この新しい規制に合わせて、消費者がオンラインショップで直接VATを支払えるように「Import One-Stop Shop(IOSS)」を構築しています。

この新しい規制は、150ユーロ以下の商品にしか適用されません。この価格の壁を超えると、消費者はVATだけでなく関税も支払うことになります。このような事態を避けるためには、消費者が購入時にVATを支払うことができるサイトで買い物をすることが最善の方法だと、フィンランド郵便局の国際eコマース担当者は述べています。

実際に著者は、EU圏外のオンラインショップで22ユーロ以下に抑えられる買い物の場合は、そのサービスを利用していました。今後はこうした事態からなるべくEU圏内で利用するようにと考えています。

今回の新しい規制により、また著者のような行動変容によって、EUに拠点を置く企業の競争力は、EU圏外に拠点を置く企業に比べて向上することが、フィンランド財務省によって予測されています。

またこの規制によって約70%の注文でVATがオンラインショップに直接支払われるようになると予測されていますが、ショップ内のシステム移行期間にどれぐらいかかるか、さらには到着後の税関等のシステム移行や手続き進行にもどれぐらいかかるか、この点がフィンランド国内では焦点となっています。

というのも、今年の3月中旬からフィンランドの税関では各国からの通関電子データの送信義務化によって、現場のシステムがこの義務化に対応できておらず、EU圏外からのすべての荷物に遅れが出ています。実際に著者も日本の実家からEMS便が到着したにも関わらず、日本発送から半月以上経過しても税関検査に入ったまま未だに受け取りができていない状況です(通常ですと日本ーフィンランド間のEMS便は、ほぼ1週間ぐらいで受け取れます)。

こうした現状から、7月以降の新しい規制が導入されても現場は再び大混乱に陥る可能性が高いですし、それまでに現在の税関混雑が解消されればですが、その可能性も今は未知であります。

今回のコロナウィルスが弱毒化するまでにはあと1-2年かかるとも言われており、するとわたしたち人間の生活もこうした規制やシステムの変更を余儀なくされることが続くと予想されます。人だけではなく、モノの移動についても改めて考えさせられる状況であります。

参考記事
フィンランド郵便局(7月1日からの新規制について):
https://www.posti.fi/fi/henkiloille/paketit-ja-seuranta/lahetyksen-seuranta-ja-hakeminen/paketin-tullaus-ja-kasittelymaksu/tullaus-1-7-2021-alkaen

フィンランド税関(現在の税関混雑について):
https://tulli.fi/en/-/delay-in-customs-clearances-of-postal-packages-arriving-from-outside-the-eu

欧州議会(「IOSS」について):
https://ec.europa.eu/taxation_customs/business/vat/ioss_en

日本郵便(通関電子データ義務化について):
https://www.post.japanpost.jp/int/ead/index.html

2021/05/27

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Terve! 電気自動車が急成長するフィンランド

フィンランドの電気自動車用充電ステーション

コロナ禍によって世界経済が停滞する中、気候変動対策とともに経済の立て直しをはかるフィンランドおよび欧州圏内ですが、今年に入り電気自動車が今後数年間で急成長すると予測が立てられました。今回はフィンランドや欧州全体における電気自動車関連の動向をお伝えします。

フィンランド自動車産業協会などの業界団体によると、今後数年間で新車の電動化が急速に進み、2025年までには充電式自動車のシェアが40%強に上昇すると予測しています。この背景には、まずフィンランドの国の目標として、2030年までに交通機関におけるCO2排出量を2005年比で50%削減が掲げられています。また電気自動車を2030年までに70万台を普及させることも掲げています。その先の2045年までにはゼロエミッションを国全体で達成することも掲げていることから、あらゆる面で電動化が進むと予測しています。

こうした予測とともに電気自動車の導入に関する税水準について、自動車産業協会の常務理事は「電気自動車の運転コストはすでに内燃機関搭載車よりも明らかに低い」と述べ、購入価格も内燃機関搭載車の価格に徐々に近づくだろう、と業界団体からも予測されています。

2020年の段階では、フィンランド国内において完全な電気自動車はまだ1万台に満たず、プラグインハイブリッド車は4万5千台強となっているようです。

一方、電気自動車の普及には充電ポイントなどのインフラ整備が不可欠です。公共の電気自動車充電インフラの拡大、一般住宅や職場への充電ステーションの設置支援、ガソリンスタンドへの充電ステーションの設置、ライドシェアリングスキームの奨励など、いくつかの目標と戦略が挙げられています。

EU(欧州連合)としては、公共の充電ポイントを2024年までに100万カ所、2029年までに300万カ所の設定を掲げています。この設置については、自動車メーカーをはじめ消費者団体のグループなどはEUに対し、EU加盟国ごとに「野心的な」目標を設定するよう呼びかけています。

さらには自動車業界だけでなく、グリッド運営者、再充電インフラ運営者、輸送会社にも大きな影響を与えることが見込まれ、それにより欧州全体で100万人の雇用を創出することも予測されています。もちろん気候変動目標を達成するのに一役買うことも期待されています。

このようなニュースが流れても、筆者が住んでいる集合住宅および住宅街には、現在、充電ポイントは一つもありません。これから急ピッチにインフラ整備が進められていくのかと静観するとともに、災害国日本に住んでいた人間からすると、すべて電動化することで災害時のリスクはどう捉えるのかと考えてしまいます。そもそも災害がほとんどないフィンランドなので、その必要はないとも言えますが・・・。

そんなことを考えながら、電気自動車が一般化される日はそう遠くもないということも実感しています。

参照記事:
https://yle.fi/uutiset/osasto/news/car_industry_sees_brisk_growth_in_electric_vehicles_by_2025/11790635

写真出典元:
https://geomarketing.com/will-car-dealerships-survive-the-coming-tide-of-electric-vehicles

2021/3/10

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Terve! フィンランドの2021年の展望はいかに?!

国際世論調査フィンランドとEUの比較

未曾有の2020年が終わり、2021年が始まりました。

年が明けて未だにコロナ禍の収束は見えず、むしろ感染拡大の方向にあります。これからの展望を語るにはまだまだ予測不可能な部分もありますが、やはり人々の行動や感情から国際社会の行末は気になるところ。ということで、今回は国際世論調査の結果やフィンランド国内の傾向を紹介したいと思います。

まずは2020年12月に実施されたGallup社による国際世論調査をみていきたいと思います。この調査内容は、20年と比較して21年はよくなるかどうかという質問に対してフィンランド人回答者の57%が良い年になると回答しています。これに対してフィンランド国外の回答者は43%、EU圏内の回答者になると35%と低い数値となっています。

この結果について、フィンランドのTaloustutkimus(エコノミックリサーチ社)のRahkonen氏は「フィンランド国内におけるコロナウィルスの感染被害について、他の国と比べて大きな被害を受けていないため、やや楽観的に考えているのではないか」と話しています。

被害の大きさなどは単純に国際比較はできませんが、前回の記事で紹介したようにフィンランド国内では比較的に抑制されている要因がいくつかあげられることで、こうした先々の展望が明るいのではないかと思います。

次にSitra(フィンランド政府研究開発基金)がフィンランド国内における「コロナ後の人々のライフスタイルはどうなるのか?」という調査を実施し、その結果報告書を発行しました。この報告書では、コロナ禍によって引き起こされた日常生活がダイナミックに変化していることを指摘しています。

その変化は、住宅、都市、労働(環境)、旅行、食生活の側面でまとめられています。例えば、
・住宅であればよりコンパクトな住まいが必要になってくる
・都市であれば15分圏内の通勤がより快適になること(移動に伴うCO2排出量削減や人々の「密」を回避)
・働き方では特にクリエイティビティな領域の労働環境の新たな定義が必要になってくること(主に対面労働領域の再定義)
・旅行であればバーチャルトリップの定着化
・食についてはより倫理的で持続可能な製造および消費が必要になってくる
などが浮き彫りになりました。

こうした変化はおそらく規模は違えども、日本をはじめ世界各地でも見られる現象ではないかと思います。

この世界規模の大惨事によって人々の行動変容に影響が及んだことは事実であり、そこからどう変わっていくのかが2021年以降の国際社会の議題であり、一人ひとりが住む地域の問題・課題でもあるでしょう。

一人ひとりができることは限られていますし、人間の行動変容はすぐには変えられません。しかし人の命・健康、そして地球環境の将来を考えるきっかけとして、引き続き感染に注意しながら考え、行動に移していくことが大切だと思います。

参照記事:
Gallup社
国際世論調査についての記事 (写真元も含む)
https://yle.fi/uutiset/osasto/news/poll_finns_more_optimistic_than_most_about_2021/11714830

Sitra発行
「Lifestyles after lockdown」
https://www.sitra.fi/en/publications/lifestyles-after-lockdown/

2021/01/20

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Terve! フィンランドコロナ感染抑制の成功要因は?

フィンランドのコロナウィルス感染追跡アプリ 2020年も残すところあとわずか。今年はこんな年になると誰が予測したでしょうか?

新型コロナウィルスの感染状況は、夏から秋にかけては一旦収束していましたが、やはり11月に入ってから世界中で再び感染拡大が報道されています。

フィンランドにおいては国全体の感染拡大のスピードは相対的に遅かったのですが、11月からヘルシンキ市を中心とした首都圏内での感染者が増え始め、11月末から12月中旬ごろまでリモートワークや遠隔授業がほぼ要請されはじめ、イベントや会議も屋内外ともに10人未満という制限が発表されました。

来年も引き続きこのような状況が続くと見られますが、今回フィンランドは他のヨーロッパ諸国と比べてウィルス拡大の抑制がうまくいっているという見方があります。専門家の間で推測する範囲では7つの要因があるのではないかと話しています。そこで今回はその考えられる要因について紹介したいと思います。

フィンランドは人口10万人あたり342件の感染数が診断され、これはヨーロッパで最も少ない件数と言われています。そのため各国およびフィンランド国内の専門家がその要因を調査しました。その結果、フィンランドの国民性や社会システム、地理的な要因が浮かび上がりました。それでは簡単に見ていきましょう。

1. 国民の海外への渡航自粛
6~8月はフィンランドの夏休み。普段なら南欧やアジアなどへ旅行へ行く人が多いですが、さすがに今年は自粛し国内旅行へ切り替えた人たちが多かったとみられます。

2. 生活および経済圏がほぼ国内限定
1と関連する要因として、基本的には日本と同じようにフィンランドは、普段の生活および経済が国内で成り立つ社会です。ということは陸続きであるヨーロッパ大陸のように近隣諸国の国境を超えて日々仕事や買い物へ行くことはほぼなく、感染抑制につながっているということが考えられます。

3. 政府をはじめ医療機関への信頼
1の要因の根底には、政府や国立感染研究所が発表する日々の報道に対して、国民が信頼を寄せていたと考えられています。パンデミックの最中ではこうした専門機関が的確な情報を伝え、国民がその指示に従うことが最も重要なことと話しています。またメディアの伝え方も、例えば恐怖心を煽るような表現よりは、前向きに対処するような伝え方の方が国民は信頼を寄せ行動に移すと話しています。

4. 人口密度の低さ
フィンランドでは1平方kmあたり約18人が住んでいるのに対し、例えばベルギーでは約400人も住んでいます。すると必然的に個人的な空間や他人との距離感が保たれます。また家族(世帯)の規模や暮らし方も南欧などとは異なる現状から、感染率の低さにつながったのではないかとみています。

5. 欠勤日の補填制度
フィンランド社会保険庁は、ウィルス感染または蔓延を防ぐために欠勤を余儀なくされた従業員に対して、感染症による日当を支給しています。16歳未満の子どもが自宅待機などの状況で働くことができない場合も、この日当制度を受けることができます。こうした制度は他の国ではあまりみられず、収入のために働き続けるという悪循環に陥っていると話しています。

6. 追跡アプリの浸透(写真参照)
8月末に追跡アプリが導入され、導入初日には人口550万人中、100万人がダウンロードしたという発表がありました。クラスターを発見し、そこに居合わせた人々へ通知し検査へ行くような仕組みであるため、即座に蔓延を防いでおり、検査と追跡が成功要因の一つだと国立感染研究所の専門家は話しています。

7. 国民性によるリモートワーク・授業の定着化
最後はご存知の通りフィンランドのリモート社会が成功要因の一つだとも言われています。しかしフィンランドもすべての労働者がリモートワークが可能な状況ではありません。ただ社会学者などによると、フィンランドの国民性として自宅で仕事をすることは苦痛ではない、むしろ大歓迎という特徴があると指摘しています。

以上7つの要因が推測されていますが、果たして来年以降、これらの要因が引き続き功を奏するか見守る必要があります。

今年は異例な年となりましたが、皆さまにおいてはいかがでしたでしょうか?
来年もどうぞウィルス感染に注意してお過ごしください。

Onnellista Uutta Vuotta 2021!

記事参照元:
https://yle.fi/uutiset/3-11643963

画像参照元:
https://www.tyoterveyswellamo.fi/2020/09/02/thln-materiaalia-koronaviruksen-estamiseen-pyrkivasta-koronavilkku-sovelluksesta/

2020/12/15

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Terve! メッツァ・パビリオンで存在感をアピール 

フィンランド大使館内のメッツァ・パビリオン
コロナで東京オリンピック・パラリンピックが延期となり、東京を中心とした関連施設や関係者には大きな影響を受けていると思います。

そんな中フィンランドは、オリンピック開催と同時にオープン予定だったMetsä Pavilion(メッツァ・パビリオン)を、東京都港区にあるフィンランド大使館の敷地内に2020年10月上旬にオープンしました。今回はこのパビリオンに関連した情報をお伝えします。

Metsä Pavilion(メッツァ・パビリオン)は、Metsäはフィンランド語の「森」で、森の展示会場をイメージとしたコンセプトの建物です。南サヴォ州プンカハルジュで伐採された木材を使用したこの建物は、フィンランドで製造された後、東京に輸送され組み立てられました。この建物は解体、移動、組み立てが最大7回可能なリユースに適した設計が施されています。

冒頭でお伝えした通り、当初の目的は東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて「フィンランドの存在感を世界中にアピールしたい」とのことでした。しかしオリンピックが延期になったことで、この延期期間中にフィンランドの企業をはじめとし、フィンランド共和国をまるごとプロモートする場として利用することを目的としています。

フィンランドと日本の貿易関係については、EUと日本間で自由貿易協定が結ばれたことで、ここ近年は非常に迅速に強化されつつあります。フィンランドの輸出国第10位で、アジア諸国の中では中国に次ぐ第2位の日本の潜在的な可能性は計り知れないと、ビジネス・フィンランドのペッカ・ライティネン氏は話しています。

特に今日本では判子やファックス文化の終焉やヘルステックなどを推進している背景から、フィンランドのビジネス界隈では「われわれはその分野の先駆者であることは間違いない」とアピールした上で日本のデジタル化に注目しています。パビリオン・オープンの当日は、ノキア社による最新5G技術を使った3Dホログラム*で、フィンランド開発協力・外国貿易大臣やビジネス・フィンランドの CEOが登場し、会場を興奮の渦に巻いたようです。

パビリオンの中はすべてMade in Finlandで作られ、1階はフィンランド企業ブース、2階は催事場として利用されます。パビリオンの運営は、2021年末までの約15ヶ月間。その間、東京オリンピック・パラリンピックの開催予定のほか、特に2階の催事場ではさまざまなイベントが行われる予定だそうです。

コロナ禍による世界経済の実質経済成長率は、OECDによるとマイナス4.5%になると言われています。両国ともにほぼ平均値が予測されていますが、2021年以降のコロナ感染状況によっては、思わぬ方向や結果になることもあります。そうした観点からも、各国の強みなどを用いて可能な範囲で経済活動を行うことが、今わたしたちにできることかもしれません。

*3Dホログラムとは、平面映像(2D)を立体(3D)で記録してデータ化し、3Dで映し出す技術のこと。角度を変えてみると、前・側面・背面まで見ることができ、まるで目の前に本人や物体があるように見えるのが特徴。3Dメガネも不要で肉眼で見えることができます。

3Dホログラム参照元:
https://yle.fi/uutiset/osasto/news/holographic_minister_unveils_finlands_largest_ever_japan_trade_mission/11585805

画像出典元:
https://www.businessfinland.fi/ja-jp/tokyo2020finland
(c) Helin & Co Architects

2020/11/02

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Terve! 差別と向き合うフィンランドの食品メーカー

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チョコレート、アイスクリームなどの名前に国や地域由来の名前を施していることで、現代社会においては人種差別と捉えられる商品が少なくありません。フィンランドの老舗お菓子メーカー「ファッツェル」を筆頭にこうした差別に向き合う企業があります。今回はそのような企業の取り組みを紹介します。

食品会社ネスレ社と英国のアイスクリームメーカーR&R社が50%出資するグローバル合併会社Froneri Finlandによると、フィンランドでは1968年からエスキモーブランドのアイスクリームスナックが販売されています。

しかしエスキモー商標を所有し人種や文化的差別に取り組む米国のドライヤーズ・グランド・アイスクリーム社では、このブランドは不適切であると述べています。

アラスカ先住民言語センターによると「エスキモー」という名称は、イヌイット族やユピック族が先住する米国アラスカ州では使われているが、他の地域では イヌイット族以外の人々がつけたもので『生肉を食べる』という意味で使われているといいます。

また言語学者によれば、この言葉は「スノーシューに網をかける」という意味のオジブワ語に由来すると考えています。

こうした米国の動きは、ジョージ・フロイド事件をきっかけに昨今活発な動きになってきているため、フィンランドにおいても商品名を慎重に検討する動きがみられます。

先述のFroneri Finland社は、私たちにとって「平等」は非常に重要な問題として認識しており、現在、調査などを進めているところであると述べています。

またフィンランドの老舗菓子メーカーのFazer(ファッツェル)社では、「Geisha」チョコレートの商品名の変更を検討していると発表しています。

「Geisha」チョコレートは1962年から販売されており、発売当初は西洋文化からみればエキゾチックで興味深いものとして捉えられていたようですが、今日の国際社会では不適切であると指摘を受けています。

SNSなどから賛否両論のフィードバックを受け取り、その中で人種差別をはじめ、文化的所有権と女性の平等に関する問題についての指摘も受け取ったと話しています。

さらに乳製品メーカーのValio(ヴァリオ)社は、文化的な固定観念に基づいたブランディングを行っているとして、パッケージに描かれた、つばのない円筒形の帽子フェズを着用したトルコ男性のステレオタイプなイメージについてSNSでの議論を受けて、ヨーグルト容器を変更する意向を発表しました。

同社は、マーケティングにおいて差別を助長しないようにするために1年前に方針を更新。この議論が発生する前にヨーグルトのリブランディングを計画していたが、迅速に対応できていなかったと認めています。

このような企業の取り組みは、今後一層活発になっていくと思われます。フィンランドは平等の精神が社会に浸透していることもあり、人種や文化的な差別については迅速にかつ慎重に検討を行う必要があることを認識しています。

ところ変われば発祥地の概念はきちんと理解されず、逆に差別的な意味を持ってしまう難しさは否めません。そうした伝統的な文化に対する尊敬の念を持つことも、これからは個人にもより一層求められてくると思います。

写真出典元:
https://www.fazer.com/products/our-international-brand-selection/geisha/geisha-milk-chocolate-since-1960s/

2020/09/09

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Terve! 在宅勤務率が高いフィンランドの課題とは?

フィンランドの在宅勤務

コロナ禍になってから在宅勤務へ移行する企業が世界各国で見受けられます。フィンランドももちろんその状況下にありますが、EU機関の調査によると、フィンランドはEU加盟国の中で在宅勤務への移行率が最も高かったという結果がありました。

今回はEUをはじめとするフィンランドの在宅勤務事情についてお伝えします。

平時から在宅勤務が推奨されているフィンランド企業。今回のコロナ禍でも大きな問題もなくスムーズに在宅勤務へ移行した人たちが大勢います。そうした状況の中、欧州生活労働条件改善財団の調査結果によると、EU加盟国の中でフィンランドは、約60%の従業員が在宅勤務に移行できたと回答しています。移行率が50%を超えたのはルクセンブルク、オランダ、ベルギー、デンマークの4ヵ国でした。

一方、在宅勤務へ移行した後、労働時間が以前と変わっていないと回答した労働者の割合が最も高かったのはスウェーデンとフィンランド(それぞれ52%、49%)でした。

こうした在宅勤務へ移行および実施するにあたっての影響は、さまざまなところで見受けられます。日本でも課題となっているワークライフバランスの問題がEU諸国でも深刻化しています。例えば、12歳未満の子どもと暮らす労働者5人に1人にあたる22%が仕事に集中できないと回答しています。反対に子どものいない世帯ではわずか5%、12~17歳の子どもがいる世帯では7%という結果です。

フィンランドの在宅勤務率がEU諸国の中で最も高い理由としては、ワークライフバランスの実施と遠距離通勤を避けるために、政府がテレワークを長年推進してきたことが大きな理由として挙げられています。

ワークライフバランスを実施してきたといえども、在宅勤務への移行の影響は物理的にも精神的にもますます境目がなくなってきています。住環境(日常生活を営む空間と仕事をする空間との境目)、介護・育児の関わり方、さまざまな家族支援ネットワークの欠如などの問題を抱えている人が多いと指摘しています。さらにすべての企業や世帯、地域が在宅勤務に適切なインフラが整備されていない点も指摘しています。

また、同僚たちとの交流が少なくなっていることが不満という結果があります。仕事の中断がなくなったことは効率的に業務が進められる一方で、やはり社会的な交流などの機会が少なくなるのは精神的に寂しいという状況がみられます。

コロナ禍が収束するころ、またはこれからの労働環境のあり方として例えば一つの会議でも会社に出社して参加する従業員と、リモートで参加する従業員のハイブリッドモデルになるのではないかと予測しています。

コロナのような見えないウイルス、そしていつまで続くかわからない不安定な日常生活。こうした状況がしばらく続くことを前提に、仕事と家庭のバランスをどう取るのかが一層問われ始めています。

記事参照元:
https://yle.fi/uutiset/osasto/news/study_finland_quickest_in_eu_to_shift_to_teleworking_in_corona_era/11344924

画像提供元:
https://ahjocomms.fi/etatyo-toi-aitouden-tyoelamaan/

2020/05/25

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Terve! ひきこもりが得意なフィンランド人は今

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新型コロナウィルスの影響で自宅で過ごす時間がぐんと増えました。もともと寒冷気候であるフィンランドでは、暗くて寒い時期を屋内で過ごすことが一般的です。その甲斐あってか、今回の自粛モードでも楽しみながら過ごしている様子が伺えます。

今回はそんなフィンランドの国民性を反映した過ごし方をご紹介します。

屋外の大規模イベントやスポーツ観戦がキャンセルとなり、また図書館などの公共施設から、カフェ・レストランまでもが閉鎖(テイクアウトとデリバリーのみ営業)。さらにはヘルシンキ周辺の首都圏内もロックダウン。こんな行き場の失ったフィンランド人がまず真っ先に向かう先は、森です。

ヘルシンキのような都市であっても、中心地から数分歩けば森や公園があります。普段からこうした場所で散歩やジョギングをしている人たちを見かけますが、この時期はさらに増えています。森に人だかりが出来ては意味がないので、各森林管理局が「複数人で群れないように」と警告しています。それでも別の森や公園へ散らばれば、人が少ないので自然界で行き場を失うことはなさそうです。

もう一つ、森とセットで過ごすのに最適な場所として、Mökki(モッキ)とよばれるコテージがあります。日本でコテージというと富裕層が所有しているイメージがありますが、フィンランドでは一般的にコテージを所有または賃貸して、そこで過ごすことを人生の楽しみの一つとしています。在宅勤務が義務となった人たちにとっては、コテージはうってつけの場所。サウナや森がセットの生活環境となれば、自粛モードはどこへやら。ただし、高齢者や感染の疑いがある人は、逆に病院近くの自宅などで過ごす必要があると言われています。

こうした生活環境に加えて、今やインターネットなしの生活は考えられない状況で生み出されているのは、オンラインでの娯楽です。昔でいう「チェーンメール」のような「5日連続で良いことがあったらSNSでアップして、別の友人を指名する」というような内容のものがいくつかまわってきています。3月に人気だったのが「若い頃の写真をアップする」でした。友人たちの若かりし頃の写真をみて自粛モードを吹き飛ばそうという意図があり、それぞれに楽しんでいました。

またフィンランドは普段からボードゲームの人気があります。カフェやバー、図書館などにボードゲームがいくつか置いてあり、飲みながら食べながら楽しむ習慣があります。そんな背景から今回のような状況下でボードゲームを購入して家族で楽しんでいる様子が伺えます。日本では馴染みの薄い北欧の文化や伝統をテーマにしたゲームもあり、個人的にはこれが一番楽しみでもあります。

最後に、フィンランドにおける自宅での過ごし方で忘れてはいけない、読書があります。世界一読書国民であり、図書館の利用率も世界一の国民にとってこのような状況下では、一層読書率が加速されます。図書館は閉鎖されていますが、e-ブックの貸し出しから、本屋さんでの本の売れ行きは好調のようです。

先が見えない世界的な感染症と向き合うために、自粛モードというよりかはこの時期をどう過ごすかによって、これからの暮らしや社会が見えてくるのではないでしょうか。そんな前向きに考えながら引き続き自宅で過ごしていきたいと思います。

*内容は、2020年3月31日現在のものです。

画像出展元:
https://www.hs.fi/kotimaa/art-2000006440605.html

2020/03/31

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Terve! フィンランドの小包ロッカー(コレクションポイント)革命

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ECサイト市場が拡大する中、フィンランドでは消費者が注文した商品をピックアップできるコレクションポイントに、少し変わったコンセプトを取り入れたサービスが導入されました。

今回はこのコレクションポイントについて紹介します。

フィンランドの郵便局「Posti(ポスティ)」は、こうした市場を睨みながらヘルシンキ市内に商品ピックアップポイントまたは配送スペースやロッカーの設置を拡大する必要があると考えていました。

ただし今までのような「小包ロッカー」ではなく、オンラインショッピングの消費者向けに新しいセルフサービスとなるようなものを取り入れたいと提案しました。

そこで提案を受けたデザイン会社Fyra社とMotley社は、商品を購入した消費者が受け取り直後に、例えば洋服の試着がすぐできる試着室やインテリア商品を開けてみて、その場で飾ってみたりできるスペースを考えてみました。このような消費者(ユーザー)の視点のサービスコンセプトを用いた「Box」というコレクションポイントができあがりました。

提案通り、試着室や商品を開けてみる充分なスペースに加えて、返送の場合でも対応できるようにリサイクルパッケージを設置したり、返品配送サービスを導入したりしました。

さらには、例えばオンライン業者が商品などを紹介できる展示スペース「スポットライト」を設けて、ちょっとしたイベントを開催できるようにソファーを設置したりコーヒーなどの飲み物も用意したりしました。従来のようなただ商品を受け取ったり送ったりする機能だけではなく、新しいサービスの体験をこの場所でできるよう、Postiは新しい取り組みに挑んでいます。

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こうしたPostiの取り組みの背景には、もともとの人的資源の少なさに加えて日本と同じく高齢化社会による介護サービスの導入(このPostiの事業のひとつとして実施しています)や、AIなどのテクノロジーの導入が盛んに叫ばれているからだと専門家たちは話しています。

そうしたことから、単に効率重視のロッカーやコレクションポイントをつくるのではなく、もっと消費者自身が楽しめるような、そしてここを利用する価値が感じられるようなサービスをこれからは考えていかなくてはならないと、Postiや協働したデザイン会社は話しています。

今回の「Box」は、ヘルシンキ市内限定ではありますが、将来フィンランド全土にわたってこうしたコレクションポイントができたら、その土地の特徴を生かしたサービスなどが考えられると思います。

例えば北部の都市ロバニエミのコレクションポイントだったら、サンタクロースやログハウス風、オーロラのイメージを用いたデザインコンセプトや、遠隔地同士をつなげるサービスなどを導入すると、フィンランドの新しい観光スポットになりそうな予感がします。

画像出典元:
https://www.fyra.fi/en/references/posti/

2020/02/20

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Terve! フィンランドに世界最年少の女性首相誕生

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2019年の終わりに差し掛かった12月初旬。フィンランド共和国の首相が交代しました。

新しい首相となったのは、社会民主党の党員で運輸通信大臣のSanna Marin(サンナ・マリン)氏、34歳です。

今回はこの新首相誕生について紹介します。

首相辞任となった背景には、2019年11月に郵便局員の給与に対するストライキのスキャンダルがありました。

ストライキは、局員の給与を50%減という案に対するものでした。

しかし、国有企業の担当大臣がストライキを決行する以前の8月に、郵便局(Posti)が局員の給与を低額へ移行する計画を知っていたとし辞任。そして首相もこの計画を知っていたとして不信任とされ辞任しました。

突如の辞任で同じ社会民主党内で以前より次期首相と言われていたマリン氏に注目が集まり、党内投票で当確して首相となりました。

34歳の世界最年少の女性首相、ということで世界から注目を浴びていますが、本人は「年齢や性別については気にしたことはない。生まれながら人間はすべて平等」と話しています。

そのマリン氏。どんな人生を歩んできたのか。簡単に過去の歴史をみてみましょう。

1985年ヘルシンキ生まれ。マリン氏の幼少時代に父親のアルコール中毒で両親が離婚。その後、母親と同性パートナーと3人暮らしで育ち、自身の家族を「レインボー(同性)・ファミリー」と呼んでいます。

高校を卒業したあと、タンペレ大学にて行政学の修士号を取得。2012年の地方選挙でタンペレ市議会の議員に選ばれ、27歳で政治家デビューとなります。

2014年には社会民主党の副議長に選ばれ、翌年にはフィンランド議会に選出されました。今年2019年には引き続きフィンランド議会に再選出され、運輸通信大臣へ。元首相が病欠で2ヶ月ほど休職している最中に、副議長として党内をとりまとめた功績が今回の就任に至りました。

マリン氏のスタンスや周囲からの評価ですが、経営者より労働者目線。主義主張が明確でカリスマ性があり、メディアパフォーマンスやスピーチ能力に長けています。掲げる政策の重要項目は、社会的公正、平等及び気候変動と環境問題と、次世代のリーダーらしさがあると評されています。

そして偶然にも、社会民主党と連立を組んでいる他4党の党首たちもなんと女性。そのうち3党は、サンナ氏と同じく30代女性です。

その連立党は、左派同盟の党首で教育大臣の Li Andersson氏(32歳)、緑の党の党首で内務大臣の Maria Ohisalo氏(35歳)、中央党の党首で財務大臣のKatri Kulmuni氏(32歳)。もう1党は、スウェーデン人民党の党首でベテラン議員のAnna-Maja Henriksson氏(55歳)の女性党首5人による連立内閣です。

歴史的にも内閣メンバーの男女の構成比は同権という背景がありますが、2019年4月の選挙では200人中93人が女性で過去最多。女性首相は、今回で3人目です。

こう書くとフィンランドの政治におけるジェンダーギャップは少ないような印象があります。しかし現在、各政党とも伝統的な政治がうまくいかず、どうリニューアルするか模索している段階だといいます。

そのような背景の中、左派同盟を筆頭に高学歴の30-40歳代の女性をリーダーにすることで、伝統的な政治のイメージからヒューマニズムを重んじる政策へ転換しているところです。

過去にも30代の首相が登場していますが、今回は女性、しかも連立4党の党首すべてが女性ということで世界中からマリン氏内閣の手腕が注目されています。

首相自ら述べているように「年齢や性別は関係なく、政治家やリーダーになったら何をするか」が重要であります。

一時的な「女性首相の流行り」に留まらず、しっかりとした政策を打ち出し歴史に残る実績を作ってもらいたいと、いち市民として願っています。

画像出展元:
https://twitter.com/TNiskakangas/status/1203729511658995713

2019/12/23

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Terve! 世界初のCaaS都市をめざすヘルシンキ

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突然ですが、CaaSという言葉を聞いたことはありますか?

これは”City as a Service”の略語で、ざっくり言うと「サービスとして構想された都市」です。

フィンランドの首都ヘルシンキ市では、世界初のCaaS都市として、テック人材向けにデモ・プロジェクトを立ち上げました。

今回はその内容についてお伝えします。

「サービスとして構想された都市」と聞いてもあまりピンと来ないかもしれません。

都市における交通機関や各種サービスなどの重要要素を包括的なサービスとして繋げている都市、というイメージでしょうか。昨今の”MaaS”(Mobility as a Service)を参考にしてみると、CaaSは、都市にあるあらゆるモノやサービス・手段などをITで統合した次世代のサービスといえるでしょう。

ちなみにこの”MaaS”についてもヘルシンキ市では、”Whim”(ウィム)というアプリサービスをすでに導入しています。

さて今回ヘルシンキにこのデモ・プロジェクトが立ち上がった背景には、フィンランドは「世界一幸せな国である」「世界一ワーク・ライフバランスがとれている国である」「世界一公共デジタルサービスが提供されている国である」・・・そうです「世界一」がいくつもあるからだそうです。

こうした外部からの評価に加え、人口や自然資源が少ない国土のため、新たな取り組みや実証実験を行うにはもってこいの国家サイズ。そして何よりも今ヨーロッパ各地では、プログラマーなどの技術系の人材が不足していることがあります。

では実際にどのようなデモ・プロジェクトなのか、内容をみていきましょう。

・無償教育を体験する
・健康的なワークライフバランスを体験する
・ヘルスケアシステムを体験する
・どこでもスムーズにいける公共交通機関を体験する
・サウナ文化を体験する
・機能的なスマートシティで時間を有効に使う

ここまでが無償のプロジェクトです。

有料プロジェクトでは、
・地元のテック人材と交流する
・スタートアップイベント「Slush」を見学する

などを予定しています。

テック人材を集める、という視点でいうと、私が住む南西部トゥルク市でもつい先日、”Talent Call Turku”というキャンペーンを実施していました。

ヘルシンキ市ほど大規模で”CaaS”とは謳っていませんが、世界各地の優秀なテック人材を募り、その家族を招いて地元の企業や観光スポットを中心に訪問する内容でした。

こうした都市のあり方を考えながら、そこにどんな人々が住み、集うのか。このような未来の都市国家の実践ができるのは、小国家ならではだとつくづく感じます。

画像出典元:
https://www.networkworld.com/article/3257664/iot-sensor-as-a-service-run-by-blockchain-is-coming.html

2019/10/25

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Terve! シェア電動キックボードが大流行のフィンランド

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最近巷でシェア電動キックボードが大人気です。

首都ヘルシンキをはじめ、地方都市でも導入が開始され、至るところで見かけます。

ということで今回は、日本でも実証実験がはじまるシェア電動キックボードについて紹介します。

ちょっと歩くには遠いけど、車で行くまでのところではないー。

こんな微妙な距離を移動するのに最適な乗り物として登場したのが、電動キックボード。

自転車のシェアリングと同じようにこちらもシェアリング事業との親和性が高いため、今のところフィンランドでは、シェアサービスとして提供されています。

フィンランドに最初に導入されたのが、隣のスウェーデン企業が提供するキックボード。その後、フィンランド地元のスタートアップ企業でもサービスが立ち上がり、現在ヘルシンキと地方都市タンペレの企業が導入しています。

使い方は簡単。まず提供するサービスのスマホアプリをダウンロードします。キックボードがある場所が見つかったら、キックボードのロックを解除します。必要事項を登録したら、キックボードに乗ります。キックボードには、アクセルレバーとブレーキレバー(またはフットブレーキ)が付いていますので、これを使って走行します。アプリで表示される指定の返却場所または目的地に着いたら、そこでキックボードを止めてアプリを終了します。利用料金は、平均的に1分15セント(約18円)ですから、1時間あたり1000円です。

このように非常に簡単で誰でも使えて利便性は高い乗り物ですが、メリットとデメリットがあり今あらゆるところで議論が展開されています。

メリットは、利便性のほかに環境配慮型設計により、リサイクル・リユースなどが可能なこと。部品とバッテリーは1-2年の耐久性があるといわれています。また自転車と同様に、CO2排出の削減や車の駐車場問題などの解決にも貢献します。

デメリットは、なんといってもスピードの出し過ぎや乗り捨て、二人乗りなどが問題になっています。特にスピードについては、最近スウェーデンやフランスで規制に乗り出しています。フィンランドは小型電動自動車の規制に則っていますが、地方都市のタンペレ市では、指定の返却場所と速度に関する独自のガイドラインを設けています。

指定の返却場所については、ほとんど設けていない会社が多いですが、最近立ち上がったヘルシンキのスタートアップ企業はこの場所を設けており、ここに返却すると返却料金が安くなるという仕組みになっています。さらにこの会社は、地域における制限速度も導入する予定です。 たとえば、繁華街では20km/hでの走行禁止などという規制を設けるようです。

個人的にまだ乗っていませんが、やはり人が少ない自転車歩道では気持ちよく乗れそうですね。導入して間もないためデメリットの方が目につきますが、Maas(Mobility as a service)の一貫としてまだまだ改善の余地があり、新たな移動の概念として注目が予想されます。

画像出典元:
https://www.v2.fi/artikkelit/viihde/2519/Koeajossa-Tier-sahkopotkulauta--kiitamista-vuokrasahkolla/

2019/08/17

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Terve! 政権交代となったフィンランドの総選挙

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4年に一度行われるフィンランドの総選挙が、2019年4月に行われました。

今回は、以前より推し進めてきた抜本的な社会福祉政策を中止した中央党が、大きく議席を減らし政権交代となりました。

第1党となったのは、社会民主党。そのわずか1議席でEU懐疑派で反移民を唱える真のフィンランド人党という結果になりました。

今回は、フィンランドの選挙についてご紹介します。

★社会民主党とポピュリスト政党で連立政権となるか?

フィンランド共和国は、4年任期制の一院制議会です。全国を14ブロックにわけて、各ブロックから6〜33人選出します。

フィンランドの政党は、主に中央党、国民連合党、社会民主党、スウェーデン人民党、キリスト教民党、左翼同盟、緑の同盟、真のフィンランド人党です。

今回の選挙の焦点は、以前よりSOTE(Sosiaali ja Terveydenhuollon uudistus)と呼ばれる社会福祉と医療サービスの抜本改革を推し進めてきた中央党と、それを批判する野党との対立と予想されていました。ところが先月、中央党の現首相が突如この改革を中止すると発表。それを受けて、野党とポピュリストの代名詞である真のフィンランド人党の勢力が強まり政権交代となりました。

連立政権をつくることが多いフィンランド議会にとって、どの政党と組むかが次の焦点となっています。高税の支持者により公共支出を増やすことを躊躇しない第1党の社会民主党と、「国境のための投票」と呼びかけて、今後フィンランドが受け入れる難民を「ほぼゼロにする」と反移民・難民政策を打ち出している第2党の真のフィンランド人党との協議は、かなり難航すると予想されています。

★平均年齢46歳、半数近くが女性議員

さて、今回の選挙結果の概要をみていきますと、投票率は前回より2%増え72%となりました。当選した議員は、男性54%、女性46%。女性の議員数は、2011年の85人から92人と増加しました。当確議員が120名中、83名が新人議員。年齢をみると、一番多いのが、40〜45歳の35人、次いで35〜40歳の30人、55〜60歳の28人と続き、平均年齢が46歳となりました。ちなみに最年少は20〜25歳の1人、最年長は65〜70歳の3人でした。
さらに外国人候補者が60人ということで、こうした状況をみると、日本の議会と大きく異なることがわかります。

★有権者とコーヒーで交流

こうした結果に至るまでのフィンランドにおける選挙活動について少しご紹介します。
選挙活動は、主にメディアを通じて行われますが、日本のように街頭演説や車でアピールするという活動は行いません。街頭演説に似たような活動としては、ショッピングセンターなどの商業施設に各党のブースを設置して有権者を招いて政策の説明をします。特徴的なことは、その説明会の際に、有権者と直接交流できるようにコーヒーやお茶菓子、ソーセージなどが振舞われます。

また投票した後に、このサービスはVaaliKahvi(ヴァーリカフィビ)と呼ばれ、「民主主義の選挙に参政し、良い選挙結果でありますように」と有権者の権利を確認するとともに、投票が問題なく反映され、公平な結果が出ることを願う場があります。

このような光景は、民主主義国家としてのフィンランドらしい一面であり、歴史的に選挙活動の重要な行いでもあります。

経済不況が脱却し始めたフィンランド。しかしここへきて、福祉政策や税金問題、移民・難民問題に気候変動の問題と各党がそれぞれに掲げる政策をどうまとめ上げるのか。16年ぶりに政権を握る社会民主党の手腕にEU各国が注目しています。

2019/05/23

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Terve! 日欧EPA締結でフィンランド貿易に拍車

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2019年2月1日に日本と欧州のEPA(経済連携協定)が発効されました。これによりフィンランドの対日輸出が大幅に増加することが見込まれます。

フィンランドにおける対日輸出は、アジア諸国の中では中国に次ぐ第2位の貿易相手国。

2017年統計では、フィンランドから日本への輸出額は13億ユーロ。

日本からフィンランドへの輸入額は7.16億ユーロで、日本から見るとフィンランドからの輸入超過となっています。

今回の協定締結により、関税撤廃の対象品目がぐっと増えました。欧州から日本への関税撤廃率は約94%。

例えば、フィンランドから日本への輸出既存品目である木材コルクや非鉄金属に加えて、プラスチックや化学薬品、そして食品の輸出が予想されます。

フィンランドは現在、サーキュラーエコノミー (循環経済)政策の促進中。プラスチックや食品に特に注目しており、日本のこうした市場への参入が見込まれています。

反対に日本においても対フィンランド輸出にも拍車がかかると予想されます。日本からフィンランドへの関税撤廃率は99%となり、牛肉、お茶、そして日本酒の輸入規制が撤廃されました。フィンランドで日本産のお酒を見る日が待ち遠しいです。

さて、フィンランド技術庁(Tekes)とフィンランドへの企業誘致を実施するフィンプロが統合された組織「ビジネスフィンランド」では、早速フード・イノベーションと題したセミナーが開催されました。近年、世界中からフィンランドの食に注目が高まる中、今後、中小企業を中心に食の経済として25%の成長を目指しています。このような背景をもとに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会における「フィンランド・パビリオン」に出展予定で、フィンランドの食の普及に力を入れています。

以前このコラムで紹介したフィンランドの昆虫食についても、世界へ進出することを見込んでいる企業もあり、もしかしたら日本で昆虫食がお目見えするかもしれません。

また、食品包装業界とのパートナーシップにも重点をおいています。サーキュラーエコノミー政策の一つであるプラスチック戦略に対応するために、食品包装のプラスチックごみ問題の解決に取り組んでいきます。

長年フィンランドの主要産業である森林産業においても、環境に配慮したバイオ燃料が注目を浴びていますので、バイオ関連の品目も日本へ進出していく可能性があります。

2019年は、フィンランドと日本の外交関係樹立100周年。このような年に経済連携協定が締結されたのは、歴史的な出来事です。両国の経済がますます発展していくよう、フィンランドから見守りたいと思います。

参考コラム:
Terve!フィンランドで未来の食が出現?!
https://www.rakuraku-boeki.jp/finland-dayori/2018-10-06

2019/02/13

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Terve! 101周年目のフィンランドの独立記念日

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2017年、フィンランドはロシア帝国から独立して100周年目を迎えました。

昨年は新たな100年を目指して新時代に入ったような雰囲気の一年でした。

その一年を振り返るかのように毎年12月6日の独立記念日には、一年間に活躍した人々が一同に会す機会があります。

それは独立記念日の祝賀会です。

大統領夫妻が、その年に活躍した各界の著名人を招いて、およそ2時間かけて握手会を行います。握手会のトップバッターは、退役軍人の方々が入場します。独立100周年を迎えられた退役軍人の方々は非常に誇り高く、この会に招待されることが光栄とおっしゃっていました。

移民である私のような外国人から見ても、この国を支えてきた方々を間近に見れることは、歴史を感じる瞬間でもあります。この他にもこの祝賀会が開かれる夕方以前には、戦争映画が放映されています。

祝賀会には、毎年テーマが設けられています。2018年は「環境」。

フィンランドは、豊富な森林に恵まれた国土のため、自然資源を利用して循環経済(サーキュラーエコノミー )の世界リーダーになると宣言しました。その取り組みが、前回のコラムでも紹介したようにスタートアップ企業を中心に展開され、2018年は経済界のさまざまな分野での目覚ましい活躍がありました。

テーマに沿った祝賀会会場のインテリアやお料理、そしてなんといっても毎年の目玉は、招待客の衣装です。特に女性のイブニングドレスにはちょっとした品評会があるほど。今年はスマホアプリで、どの著名人の衣装が気に入ったかと投票できるシステムまでできるほどの盛り上がりになりました。

イブニングドレスのトップバッターとして、やはりファーストレディーのドレスが気になります。今年のテーマに沿って、なんと白樺の木から作られた純白なドレスをお召しになっていました。白樺の木からとれたセルロースを溶解して繊維を生成。そこから縫製したドレスでした。デザインは、アアルト大学の学生が作ったそうです。

このほかにもプラスチック代替の素材を提供する会社の社長夫妻が招待され、彼らが着ていたイブニングドレスやクラッチバックの素材はすべてそのプラスチック代替の素材を使っていました。

こうした祝賀会を家族揃ってテレビの前で見ていると、日本の紅白歌合戦を思い出させるような光景でもありました。

しかしこの祝賀会に対する抗議デモが行われています。移民や人種差別、貧困層などからの抗議は毎年行われ、死傷者が出ないまでも、祝賀会の間のニュースとして放映されています。表の舞台と裏の舞台は、どこの社会でも存在するものであります。

次の100年に向けてあゆみだしたフィンランド共和国。今年2019年は、日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を迎えます。1919年に日本がフィンランドを国家として承認。その結果、両国が外交関係を樹立することになりました。

私自身、この100年の最後の数年間に、架け橋的な立場になりました。次の100年の最初のステージでは両国に少しでも貢献できるよう、今年はいろいろ活動していきたいと思います。

2019/01/05

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Terve!フィンランドで未来の食が出現?!

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都市に新しいレストランができるとどの国でも話題になります。

フィンランドの首都ヘルシンキにも毎年さまざまなレストランがオープンしています。

でも最近オープンしたレストラン、ちょっと風変わりな食材をネタにしているので話題になっています。

その食材とは・・・。食用コオロギです。

欧州委員会(EU)が今年2018年1月に食材に用いる「昆虫食」を「食品」と認可したため、食用の昆虫食の飼育や販売が可能になりました。昆虫は、他の飼育動物に比べて大規模な設備投資が要らず、コストを抑えて飼育できること。飼育の過程における環境に対する負荷が低いこと。さらには昆虫に含まれるタンパク質やビタミン類が豊富ということで、経営面、環境面そして栄養面でも「食」の未来のカギを握る「スーパーフード」として注目を集めています。

そのレストランでは、「コオロギ」の素揚げタルトが話題を呼んでいます。食を提供するだけではなく、店内でそのコオロギを飼育しているのも興味深いです。

しかし、なぜ欧州連合やそのレストランはそこまでして昆虫食にこだわるのでしょうか。その背景には、EUが新たな経済モデルとして提言している「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」の存在があります。これは、日本でおなじみの「リサイクル」「リユース」「リデュース」の3Rを製品ライフサイクル全体の中で実現し、あらゆる原材料、製品、廃棄物を最大限に活用することで、環境面および経済面の双方に利益を生み出すことを目的としています。

フィンランドにおいては、「サーキュラー・エコノミー・ロードマップ2025」が策定され、その中で「持続可能な食料システム」として、食に関わる環境負荷を低減し、新たな市場や雇用を生み出すことを掲げています。

この昆虫食はまさにその目的に沿った新しい取り組み。レストラン以外でも、菓子製造会社ではパンやクッキー、チョコレートに練りこんだものを開発して販売しています。そのおかげか、最近では、フィンランド国内にコオロギ工場が増えているといいます。

実際、著者が住む地元のスタートアップ企業の一つが、コオロギを製品開発してスムージーやチョコレートに商品化して販売をはじめ、数カ所に工場を建てています。

昆虫食というと、日本ではイナゴの佃煮が有名かと思います。中国やタイなどでも日常的に昆虫を食べる地域があるとか。でもやはり口にするには、まだまだ抵抗があると感じるのは、私だけでしょうか。

じゃがいもやトマトがその昔、魔物の食べ物だと言われた時代があったように、あと100年後ぐらいには「昔は、コオロギは食べ物じゃなかったんだよ」「え〜!こんな美味しいのに?」という会話が交わされて一般化しているのでしょうか。

2018/10/06

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Terve! 何もしないで充電するフィンランドの夏休み

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今年も半分が過ぎたところで、夏休みが始まりました。

毎年どんな休みにしようかとあれこれ考えますが、フィンランドの夏休みは「何もしない」ことが一般的です。

今回は季節行事とともに、フィンランドの夏休みについてご紹介します。

◆一日でも長く太陽の光を

毎年、夏至の直後の週末は、Juhannus(ユハンヌス)といって、北欧諸国に昔から伝わる夏至祭が開かれます。これは、キリスト教の洗礼者ヨハネの誕生日とされる6月24日が祝日となり、ちょうどイエス・キリストが生まれたクリスマスの半年前の誕生日であるため、夏のクリスマスとも言われます。近年は、6月20日〜26日の間の土曜日を祝日とする移動祝祭日として、その前日はユハンヌス・イブになり、この日から祝日モードになります。

夏至は太陽が頂点に達し、それ以降、冬至に向かって徐々に日が短くなるため、北欧諸国では、一日でも長く太陽の光が地上に届くようにと、太陽に力を与えるといわれるKokko(コッコ)と呼ばれる焚き火を湖畔近くで燃やします。
ユハンヌス・イブにこの焚き火を燃やし、天気が良ければ外でBBQをしたり、サウナに入ったりして夏至祭を祝います。

昔から夏至の夜は、神秘的で超自然的なものと結びついていると言われています。薬草を朝露が下りる前に摘んで枕の下にしいて寝ると、ご加護や未婚の女性であれば未来の夫が夢に出てくるなどと言われたり、またこの時期に咲く草花などで冠を作って1年間の健康を祈り、夏至祭のあとにこの冠を川に流して将来を占うなどとも言われています。

◆パスワードを忘れるほど遊べ

さてこのユハンヌスを境に、夏休みに入る人が多くなります。その夏休みは、だいたい3~4週間。学生は6月から夏休みが始まっていて、親御さんたちはそれに合わせて1ヶ月近くの休暇に入ります。国外に旅行する人もいれば、Kesämökki(ケサモッキ)と呼ばれるサマーコテージに滞在する人もいます。後者が典型的なフィンランドの夏休みの過ごし方。ユハンヌス直前は、荷物をどっさり詰めた車が高速道路を走り抜けていく姿が見受けられます。

するとビジネスマンたちは、普段の忙しさからこの時期ばかりはゆっくりとコテージで過ごすため、仕事は一切しません。1ヶ月近く休暇を取ると、職場はどうなるかというと、もちろん代わりの人がバックアップします。それでも何人もの人が一度に休んでしまうと手が足りなくなるところもあります。

そのような職業や業種については、学生たちのサマージョブ(夏休みのアルバイト)のボジションが与えられます。これですべて賄いきれるわけではないので、この時期はフィンランド全国どこでも夏休みモードと割り切り、窓口や接客対応は通常よりも遅くなる、という認識が浸透しています。特に6月から8月にかけては、業務がほぼストップすることを前提に、それ以前に仕事を終わらせるなどの工夫が必要です。

それほど夏休みを取るということは、フィンランド人にとって大切なもの。この夏休みにゆっくり休み、仕事や勉強をなど何もしないことが重要です。何もせずに、ひたすら遊び家族や友人と過ごすことが、休み明けの仕事への活力となると言われています。休暇に入るときに、上司や同僚から「PCのパスワードを忘れるほど休みなさい」と半分冗談で言われるようです。

◆夏は家族行事が目白押し

そんなわけでゆっくり休み何もしない夏休みですが、この時期に引越しや結婚式など人生におけるちょっとした行事を行う家庭が多いです。そもそもフィンランドの秋や冬は暗くて寒くて雪が多いため、こうした行事がなかなかできない(またはあまりふさわしくない)などの理由があります。1ヶ月ぐらい夏休みがあると、毎週誰かの結婚式や新築パーティ、宗教的な儀式などがあり、親戚一同集まることが多いので、日本人の私にとっては「お盆」のような感覚です。

フィンランドは8月中旬ごろから新学期がはじまるので、特に大学1年目にあたる学生にとっては、家族と離れて新しい生活が始まる学生寮への引っ越しなどがあります。またビジネスマンにとっても、転職などで勤務先が変わることもこの時期多く、夏休みにリフレッシュして新天地に向かう人もいます。

新緑や太陽の光が眩しい5月から8月の季節。この季節が一日でも長く続きますように、という願いとともに、自然の恵みを受けて身体の休養を行うフィンランド国民。北欧の気候ならではの過ごし方ですが、しっかり休んで充電することはどこの国にいてもやはり大切なことだと実感しています。

2018/07/27

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Terve! フィンランドのアルコールあれこれ

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週末の朝、近くの小さなスーパーへ行きビールを買おうとしたら、

「まだ8時だから販売できないよ」

と店員に言われてしまいました。

フィンランドでのお酒の販売時間は、朝9時から夜21時までと法律で決められています。

今回はフィンランドのアルコールにまつわるあれこれをご紹介します。

日本より厳しいアルコール規制

冒頭のようにアルコールの販売規制は日本と比べて厳しいです。販売時間をはじめ、アルコール度数4.7パーセント以下であれば、スーパーや小さな店舗でも販売していますが、4.7パーセント以上であるワインやウォッカ、リキュール系などは、フィンランドで全国展開しているAlko(アルコ)というお酒専門店へ行かなければなりません。

Alkoでは、フィンランド国産のビールやウォッカをはじめ世界的なブランドはほぼ100%販売されており、中には日本酒や日本のビールも販売している店舗もあります。

最近、アルコール度数の規制が改訂され、4.7パーセントから5.5パーセントへ引き上げられました。近年のAlkoの人員削減や、アルコールをもっと身近に購入できるように、などの背景があるようです。

Alkoの販売時間も、ある程度は店舗によりますが、基本的には平日朝9時から夜20時まで。土曜日は朝9時から夜18時。日曜日は休業です。最近では夜22時まで開店しているスーパーがありますが、21時を過ぎると、お酒コーナーにシャッターが降ろされます。

また購入する人の年齢制限は、アルコール度数22パーセント未満だと、18歳以上。22パーセント以上は20歳以上、と決められています。

この年齢制限で、見た目が若く見られがちなアジア人(日本人も含め)は、よく身分証明書の
提示が求められます。周りのアジア人の友人たちは「また若く見られちゃった〜」と苦笑しながらお店でアルコールを買ったり、バーやクラブで飲んでいるという話しをよく聞きます。

こうした厳しい規制は、アルコール中毒者の増加や未成年者の飲酒などの社会問題を背景として取り締まられています。

北国ならではの楽しみ方

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アルコール規制が厳しい一方、フィンランドをはじめとする北欧諸国では家庭でライ麦を使って自家製ビールをつくる伝統があります。フィンランドのスーパーでは、手頃に作れるビール作りキットが売っています。

自家製ビールは「KotiKalja」(Koti =家、Kalja=ライトビール)と言われ、ライ麦の麦芽だけのものや、酵母とシロップがセットで売っているものもあります。ビールを入れる容器や貯蔵する瓶なども合わせて購入できます。作り方は簡単。そのセットをお湯に入れて溶かし、室温で放置すること24時間。瓶詰めをしてさらに2-3日置くとビールらしく落ち着いた味わいになってきます。

アルコール度数はほぼゼロで、ノンアルコール・ビールといったところでしょうか。食事の飲み物としてレストランのランチや大学のカフェでも飲むことができます。

暗くて長い冬の一つの楽しみとしてビール作りは人気のようで、知人や友人たちもその昔楽しんでいたとか。アルコール度数が低いビール作りに熱中するなら良いですが、社会問題となっているアルコール依存症にならない程度のたしなみは、世界のどこにいても身に付けたいものです。

2018/05/28

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Terve! サウナはフィンランドのアイデンティティ

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突然ですが、みなさんサウナは好きですか?

日本でもスーパー銭湯や温泉施設があちこちにお目見えし、サウナや岩盤浴を楽しむ機会が増えてきましたね。

ここフィンランドはサウナの発祥地として日常において、そしてビジネスシーンにおいても欠かせない大切なものとされています。

その証拠に人口およそ550万人に対しておよそ330万のサウナ風呂があるといわれています。

神聖で清潔な場所

その昔、サウナは身体を洗う場所だけでなく、お産をし新生児を洗いその後1週間ほどの仮住まいの場所とされていました。そして家族の誰かが他界すると、遺体を洗う場所にもなっていました。今ではこのような神聖な儀式はなくなりつつありますが、フィンランドの夏至祭やクリスマス前夜には、心身を清める場所として必ず利用されています。

フィンランドのサウナには、薪でたくサウナと電気ストーブ式のサウナがあります。前者は、一軒家やコテージのサウナに多く、後者は集合住宅や学生寮などにあります。集合住宅には一世帯ずつあり、学生寮や、やや古い集合住宅では共同サウナとして備え付けられているので、事前に予約して利用できます。

ビジネス会議はサウナ室で?!

自宅にサウナが場合は、公衆サウナを利用できます。日本の銭湯と同じ感覚でいつでも利用できます。他にも、ホテルや国会議事堂、そして民間企業のオフィスの中にもあります。フィンランドのビジネスシーンではサウナで会議が行われることがあります。かつてサウナ外交を推奨していたといわれる元首相で大統領のウルフ・ケッコネン氏が、国際会議の後に各国のリーダーや官公使たちをサウナに誘い、裸の付き合いをしながら議論し続けたというエピソードがあります。それに倣ってか、今でも会議で凝り固まった脳をほぐすためにサウナに入り、相手とじっくり向き合い共に汗を流して議論を続けるビジネス文化が受け継がれています。

会議以外でも、忘年会や慰労会など社内レクリエーションとしてサウナパーティーを開催する会社もあります。サウナが温まるまでの間、参加者たちは飲食しながらくつろぎ、サウナが温まればサウナでリラックスし、サウナの途中ではタオルを巻いて外に出て涼みながらまた飲食したりおしゃべりしたり。身体を一気に冷やしたいなら夏なら海へ、冬なら凍湖へ入る人もいたり。日頃の疲れを癒しながら同僚や上司たちとの交流を深める場として利用されています。

こうした公共の場でのサウナは、男女別のところもあれば混浴のところもあります。混浴の場合はタオルや水着を着用することになっています。

サウナはフィンランドの「おもてなし」

私が初めて義家族に会った日、義父に「サウナができているからどうぞ」と言われました。当時はただ、サウナの準備ができたよ、と知らせてくれたという理解でしたが、ここに住んでみるとこの意味は「人をもてなす」行為であることがわかりました。

サウナに一人で入ることもありますが、基本的にフィンランドでは家族や友人、そして職場の同僚などと入ることで相手との距離を縮めながら共にくつろぐ時間を共有しています。その貴重な時間に価値を置いているため、そのような場所(サウナ)をもてなすことがフィンランド人にとってのホスピタリティになります。

もし観光でフィンランドへ訪れたりフィンランド人と交渉する機会があったら、躊躇することなくサウナに入ることをオススメします。人々との交流はもちろんのこと、ビジネスでの交渉がまとまらないとサウナから出してもらえず帰国することが許されないかもしれませんよ。

2018/04/04

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Terve! フィンランドの税と物価

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「フィンランド人のおよそ8割が高税を払うことに納得している」

先日、フィンランド税務局が実施した調査結果がニュースで報道されました。

調査結果によると、国民が教育や福祉などの公的サービスが受けられることを重要視しており、税金の使途が明文化されているため、多くの人々が高い税金を支払うことに理解を示していると分析しています。

■公的サービスの恩恵

この分析の通り、高率税金国家で知られるフィンランドでは、教育をはじめ医療や福祉分野においては、費用がほぼかからずに利用できます。実際私も移住してすぐに産休および育児制度を利用し、出産にかかった費用は入院費のみ。また手術などの大掛かりな治療の場合も入院費のみで利用できます。

医療と同じく費用がかからない教育制度。現在は2015年から義務化になったプレスクール(小学校に入学する前の一年間に通学する学校)から、小中高、大学、そして大学院まで費用がかかりません。未就学児童が通う保育園や幼稚園は、一世帯あたりの収入により月額費用が算定されます。

この他に、日本と異なり費用がかからない公的サービスとして、高速道路や大小さまざまな島を結ぶ各地のフェリーの利用料、国営放送の受信料などがあります。また街中から住宅街、集合住宅の至るところにある公園や運動器具の数の多さや質の良さ、そしてこれからの季節に大活躍する、夜間を含めた除雪作業などのサービスも充実しています。

■物品ごとに異なる付加価値税

このような公的サービスが受けられる基盤となる主な消費税をご紹介しましょう。フィンランドでは、物品ごとに税率が異なります。

・24%:一般消費税
・14%:食料品(ただし酒、タバコを除く)、飲食店
・10%:書籍、新聞や週刊誌などの購読料金、医薬品、宿泊施設、旅客輸送、映画館や遊園地などの入場料など
・0%: 輸出業

お酒は29.9%、タバコは81.3%の税率です。お酒は、アルコール度数4.7%を境に、それ以下であればスーパーや小規模な店舗でも扱っていますが、これ以上になるとお酒の専門店のみの販売となります。

この他に教会の信者の場合は、所得額の1-2%の教会税がかかります。

一方、税金免除の対象分野は、先に紹介した教育や医療、社会保障に関するサービスの他に、公的な葬祭業やアーティストの報酬などがあります。

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■食品は安い。でも外食は高い?!

ではフィンランドの物価はどれぐらいでしょうか。主に普段の生活に必要な食品をみていきましょう。

・飲料水(ガス抜き、500ml)
 1ユーロ
・その他のペットボトル飲料
 2.5ユーロ前後から
・卵(1kg)
 2.5~3.5ユーロ前後
・牛乳(1L)
 0.5~1.2ユーロ前後
・ビール缶(500ml)
 2.0~2.5ユーロ前後
・バナナ(1kg)
 1.0~1.5ユーロ前後
・じゃがいも(1kg)
 0.5~0.8ユーロ前後
・サラダ菜(1パック)
 0.8~1.6ユーロ前後
・鶏、豚、牛肉(500g)
 4.0~6.0ユーロ前後

*ペットボトル、瓶、缶はデポジット制なので、10~20セントのリサイクル還元金を含む値段です

外食になると、ファーストフードのミールセットで5~6ユーロ。中級レストランのランチで9~10ユーロ、夜は前菜だけで10ユーロ近くなるところが多いです。バーで飲むビールやワインはグラス1杯4.5~6ユーロぐらい。

以上の商品やサービスの金額表示は、税込み価格の額が表示されています。また飲食店でのサービス料やチップを上乗せするシステムはありません。

移住して暫くはこの高税率な生活に慣れなくやや不満を抱いていた私も、出産育児の費用や子どもの教育費がすべて無料の恩恵を受けて、ようやく納得できるレベルになってきました。

周りのフィンランド人たちが「税金?絶対に払うでしょ!」と嫌な顔一つせずに収めている姿も見て、冒頭の調査結果にも納得です。

*ユーロ換算:1ユーロ131円。換算率を含めここで紹介した金額は、すべて2017年11月現在のものです
*税金免除とされる教育や医療などの詳しい内容は、社会保険庁(KELA)にて確認できます

2017/12/18

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Terve! フィンランド独立100周年目の悲劇

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2017年8月18日の夕方、我が家でくつろいでいるところ、夫から「ちょっと」という声が。

夫のそばへいってみると、タブレット片手に神妙な顔で「今、中心地で発砲が確認されたというニュースが入ってきた。しばらくニュースを追っていく」と。

最初は何事が起きたのかわかりませんでしたが、フィンランドでもとうとうテロ事件が発生してしまいました。

当初入ってきたニュースによると、中心地にあるマーケット市場で、外国人の風貌をした男性が、通りがかりの人々をナイフで無差別に殺傷し、2人が死亡、8人が重軽傷を負ったというものでした。

容疑者は、警察への通報からたった3分で駆けつけた警官により、足を射撃されその場で拘束。この他にも4人が拘束されました。

捜査が進み事件の真相が明らかになると、容疑者は昨年フィンランドに入国した難民申請者。フィンランドに来る前は、ドイツで不法滞在であったこと、そしてフィンランドでも滞在許可が下りないことがわかり始めた最中の出来事だったということがわかりました。またテロ組織とは関係のない、「無差別殺傷事件」として扱われ始めています。しかし各方面の取り調べから、容疑者本人が過激な思想に傾倒しているなどの情報も出始めています。

まさかフィンランドの地方都市、人口わずか19万人のトゥルクの街でテロが起きるとは、思っていませんでした。ヘルシンキなどの首都や空港などの警備は、近年、厳しく規制され始めていましたが、地方都市への警戒はあまりなかったことが、今回の事件発生につながったのかもしれないという見方もあります。

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テロから1ヶ月が過ぎました。事件現場には、事件後2週間ほど花束やローソクが手向けられていましたが、今は大きな鉢に入ったリンゴの木が置かれています。事件直後には、難民受け入れ反対デモとそのデモに反対するデモ(難民受け入れ賛成者や人権保護団体など)の衝突があり、やや不穏な雰囲気がありましたが、現在は落ち着き始めています。

しかしフィンランド国内では、滞在許可が下りるのを待ちわびている各地の難民申請者たちのうっぷんが溜まりはじめ、滞在許可を求めて隣国スウェーデンへ渡る人々も出てきているなどの変化がみられます。

この事件を受けてフィンランド政府は、国籍や外国人に関連する国籍法の条項を見直そうという動きが始まりました。国家安全保障上、居住許可の取り消しや、入国禁止などの処置を取ることを検討しています。

人口がもともと少なく、EU諸国の中では高齢化社会の先進国と言われるフィンランド。これからは以前にも増してより移民・難民者の受け入れを実施していかなかくてはならない状況です。難民者が自活できるような支援は充実しており、語学学校をはじめ、職業訓練学校や難民向けの起業サポートなども整備されています。

それでもやはりすべての人が納得し満足いくものではありません。受け入れ側の体制を考えると同時に、なぜ難民が発生するのかという根本的な問題を、我々先進国側が真剣に考える時がきていると思います。

今年はフィンランドの独立100周年目。哀しくもそんな年にこのような悲劇が起こってしまったことは、私のような移民をはじめフィンランドの国民にも深く心に残ることでしょう。

2017/09/27

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Terve! フィンランドのキャッスレスの今

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隣の国スウェーデンではキャッシュレス決済が100%近くとなり、新通貨はほぼ製造されていないようです。

フィンランドはまだそこまでいきませんが、日本と比べたら圧倒的なキャッスレス社会です。

今回は一般的な買い物など消費にかかわる決済についてお伝えします。

■ 青空市場と有料公衆トイレのみ現金払い

移住間もなく、ユーロ現金を持ってATMで入金しようとしたところ、入金操作機能がないことに気がつきました。幸い一緒にいた夫に聞いてみると、「あ、この機械は入金できないから、別のATMもしくは銀行に行かなくちゃならないね」と返ってきました。

現在、フィンランドの現金利用率はおよそ4割程度。自分の銀行口座からの現金引き落としはどのATMでもできますが、入金は専用機械または銀行窓口で行います。専用機械は街の中心地や大型ショッピングセンターなどにありますが、台数はかなり制限されています。

現金の主な利用場所は、一部の青空市場(露店)と有料公衆トイレ。昔はその青空市場や露店でも現金のみの取り扱いだったのが、最近ではカード利用がOKのお店も増えてきました。スーパー、カフェやレストラン、商業施設、交通機関は現金とクレジットカードおよびデビットカードの両方利用できます。小型スーパーでの飲み物や切手などの少額決済もカード決済が可能です。病院の医療費をはじめ光熱費や公共機関の利用料の一部などは、利用日以降や月末に請求書が届き、オンラインバンキングから支払いを行うシステムとなっています。

■ キャッシュレス社会のゆくえ

スウェーデンに代表されるように北欧諸国はキャッシュレス化に向けてものすごいスピードで加速しています。それもそのはず。スウェーデン、デンマークはユーロ通貨を導入していないため、「現金清算の義務」を一部で廃止するという法案を施行。これにより半強制的にキャッシュレス決済を促しているようです。フィンランドはユーロ通貨を導入しているためここまでの勢いはありませんが、フィンランド銀行は遅くとも2029年までには国内における現金使用が終了すると推計しています。

2013年以降、25ユーロ以下のカード支払い時には、暗証番号ではなくカードをかざすだけで支払いが可能となり、一段と使い勝手がよくなってきました。将来我が子に「現金って何?」と質問されたら現物を見せて説明しようと、今からコインや紙幣を保管し始めています。

2017/07/25

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Terve! フィンランドの核シェルター人口の7割をカバー

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世界で比較的安全な国と言われるフィンランド。その理由の一つに550万人の人口の約7割が隠れられる核シェルターがあります。

フィンランドの核シェルターとは、どんなものなのでしょうか。

■ 72時間分の備蓄完備

フィンランドの防災法では、建物の所有者に核シェルターの設置が求められています。条件として、建物内の床面積が1200平方メートルの住居、または1500平方メートルの工業、生産、貯蔵用の建物であること。

その建物の地下または1階に72時間分の備蓄を完備した部屋を設置すること。この部屋は放射線をはじめ、有毒物質や建物の崩壊などから逃れられるような設備が求められています。

放射計からドライトイレ、水タンク、救急箱などの備蓄品が用意してあり、最低3日間の避難所としての役割を果たす機能が必要です。

都市部の商業施設や公共機関の建物にも設置されているので、有事の際には市民用シェルターとしての活用が推奨されています。例えば首都ヘルシンキには50ヶ所のシェルターがあり、そのうちの1カ所はなんと6000人も収容できるとか。通常は、スポーツ施設や子どもの遊び場として利用可能だそうです。

ちなみに我が家の建物の地下にも、写真のようなオレンジ色の案内板とともにシェルターが設置されています。

■ 自己防衛の歴史

ではなぜフィンランドでは防災法で核シェルターの設置が求められているのでしょうか。歴史を遡ること、旧ソ連軍がフィンランドに侵入した冬戦争当時、国内には2万ほどのシェルターがありました。1958年には現在の防災法の基本となる法律が施行。その後1986年にチェルノブイリ原発事故がウクライナで発生。それにより1991年にフィンランド全国を対象とした現在の防災法が施行されました。

旧ソ連軍による侵入やさらに1100〜1800年初期に遡れば、反対側のスウェーデン王国からの支配も受けていたフィンランド。常に近隣からの脅威にさらされていたためか、自己防衛の役割が大きいと言われています。

加えてフィンランドは原子力発電所を2基保有しています。放射性廃棄物の最終処分場の建設が進められ、有事に備えて避難する施設が必要であります。

フィンランドは日本のような災害国ではありませんが、過去の歴史に学び法規制を行い、少人口を守る義務を果たしていると言えます。「備えあれば憂いなし」。でも核シェルターが本来の目的で使われることが一度もないよう、心から願っています。

2017/06/02

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Terve! ビジネス会議必須の2アイテムといえば

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仕事柄、会議やセミナーへよく足を運びます。フィンランドのビジネス会議事情として、フィンランドらしい点を二つほど発見したので、今回はそれをご紹介します。

■IT先進国の強み

フィンランドはノキアに代表されるIT先進国。比較的どこでも無料Wifiの環境が整っていることから、常時ノートパソコンなどのスマホ以外のデバイスを持ち歩く人を多く見かけます。

主要観光地をはじめ、図書館や博物館、また商業施設内でも無制限の無料Wifiに接続することができます。電車や長距離バス、さらにフェリーの駅やターミナル、そして車中でもフリー接続できます。

私がよく利用する高速バスには電源まで付いているので、ノートパソコン一式持参して、移動中の車内で仕事することがあります(機密情報などには配慮しています)。

こうした環境が整備されていることから、ビジネス会議でもフリー接続のところが多いです。

国際会議の開催数の多さが理由の一つだと思いますが、国内外の大小さまざまな会場には、必ずと言っていいほど無料Wifi環境が提供されています。受付の際にネットワーク名とパスワードが書かれたIDが渡されたり、会場内に両方が記載された案内板があるので、会場に到着したら必ずチェックすることが習慣となりました。

国際会議や街中の貸会議室はもちろんのこと、大学や企業のちょっとしたセミナーでもフリー接続が提供されます。地方の小さな会場でのWifi環境となると少し疑問符がつきますが、都心部の会場では問題なくスムーズに行えます。

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■極夜対策で世界一の消費量

会議場のWifiと同じくほぼ提供されるのが、コーヒー。
フィンランド人は、実は世界の中でもコーヒの消費量が1、2位を争うほどのコーヒー党。もちろん紅茶党の人もいますが、国民一人あたりの年間消費量は12.2kg。日本は3.54kgで約4倍の消費量。1日あたり平均3〜5杯、これは4.5dlに相当し、この中に含まれるカフェインはおよそ400mg(1dlに平均90mgのカフェイン)。

1日で400mgのカフェインを摂取している理由は、気候。特に秋から冬にかけて太陽がほぼ昇らないこの時期に、カフェインなど刺激物を摂取して仕事や勉強に励む人が多いといいます。実際私の家族や仕事仲間もちょっとした息抜きには必ず「コーヒー飲む?」が合言葉です。

ビジネス界では「Kahvi Tauko」(Kahvi =コーヒー、Tauko=休憩)と呼ばれ、会議のアジェンダにはこの言葉があり、終日会議だと午前一回、午後一回の必ず1日二回設けられています。こちらも大学や企業のちょっとしたセミナーでもサイドテーブルにお茶菓子とともにコーヒーポットが用意されているので、時間がなく昼食を食べ損ねたりしてもこれで空腹が多少満たされ会議に集中できます。

フィンランドのビジネスアワーは、午前8時から午後4時まで。余程のことや管理職でない限り、残業とはほぼ無縁。そのためこの8時間に集中して仕事を片付けることが必須なため、みんなコーヒー片手にパソコンに向かっています。

ちなみにお茶菓子の他に、午前8時や9時開始の朝一会議では、簡単な朝食が用意されています。ホテル内ではなく、ビジネス会議場や貸会議室で、です。これには驚き、会議担当者へ会員限定や有料ではないかと何度も尋ねましたが、どこも無料で提供。本当にありがたいです。

Wifiとコーヒは今や世界中では当たり前の風景。フィンランドの一般的な会議でもこの2つが提供されているビジネス習慣に慣れ始め、どこの会議場のコーヒーや朝食が好評かしら、と会議に参加する楽しみが増えている今日この頃です。

2017/04/04

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Terve! フィンランドが生んだ世界初の破氷船とは

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冬季の海は氷が張り船の航行をスムーズにするために砕氷船は欠かせないもの。

フィンランド周辺のバルト海でも砕氷船は大活躍中ですが、今年フィンランドの独立100周年を記念して、世界初のLNG(液化天然ガス)を動力源とする砕氷船が初航海しました。

■環境にやさしいディーゼル電気砕氷船

フィンランドの砕氷船の運行サービス等を手がけるArctia社が造船した「ポラリス号」。世界で初めて液化天然ガスを動力とし、燃料に低硫黄ディーゼルもあわせて使用することで、運行中の二酸化炭素量および汚染物質量を削減できる環境に配慮した砕氷船。

氷の摩擦抵抗を最小限に抑え、砕氷能力を最大限に引き出す特別な船体形状と推進装置も備わっています。「フィンランドの貿易は、この砕氷船なくしては成り立ちません。記念すべき年にわれわれが今まで培ってきた設計や建造などのノウハウを集結した砕氷船を航行することができ、とても光栄です」と担当者は語っています。

■長きにわたる高評価の砕氷技術

フィンランドの砕氷技術は、世界中で高く評価されています。北極海と北海航路では、環境規制が厳しくなる中で海上交通が活発化し、高度な砕氷船や氷海を航行するコンテナ船の需要が高まってきています。そのような背景の下、氷技術を専門とするフィンランドのエンジニアリング会社Aker Arctic Technology(AARC)は、高度な北極船や海上ソリューション開発において世界的なリーダーとして活躍してきました。

「あらゆるインフラから遠く離れたマイナス30度以下の気候環境下で活動するためには、高度な技術が求められています」と担当者は話しています。こうしたパートナーと専門知識を共有することで、50年以上にもわたる砕氷船の技術と経験を積んできました。

造船所は世界で最も多く砕氷船を造船しているといわれるヘルシンキ造船所。さまざまな分野のベテランや専門家たちがこのポラリス号に関わりました。

ちなみにヨーロッパ初の砕氷船は、フィンランド湾内のクロンシュタット港で造船された砕氷型の船首を備えた蒸気機関を動力とする曳航船だったとか。

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■冬のバルト海で活躍

ポラリス号の主な任務はバルト海での砕氷。冬期にバルト海に入出港する船舶を支援します。また一年を通じて外洋での油流出対応作業や緊急時の曳航および救助作業も支援します。

凍結はまず10月末から11月初旬にかけて、フィンランドとスウェーデンの間のボスニア湾に始まり、1月末から2月にかけてはフィンランド南部のフィンランド湾に達します。まさに今がポラリス号の活躍時です。

そのバルト海は、氷河期の反動で地盤が隆起している(アイソスタシー現象)との科学的な証拠があり、現在でも数ミリメートル単位で隆起が続いているとのこと。特に今のところ航行には影響はないようですが、興味深いですね。

実際にポラリス号を目にすることはありませんが、海上交通における縁の下の力持ちとして今後大活躍することでしょう。

2017/3/6

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Terve! 北欧の物流網の変革に一役買うフィンランド

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2017年が始まりました。今年はフィンランドがロシア帝国から独立を宣言して100年目を迎えます。

歴史にはじまり、シベリウス音楽やアールト建築などの文化、サウナに雪の城、そしてオーロラや自然環境ツアーなどフィンランドらしい記念イベントがずらり。国民が一緒になって建国に携わってきたことから、イベントのテーマは「みんなで一緒に祝おう!”Yhdessä”」。

国内外の人々みんなで祝うために他国でもイベントが開催されています。もちろん日本でも開催予定ですので、ご興味のある方は大使館を中心にぜひご参加ください。

■未来の通勤カプセル

さて「欧州の玄関口」といわれるフィンランド・ヘルシンキ。ここに1000km/hを超えるスピードで走行するカプセルおよび磁気駆動型の低気圧チューブ「ハイパー・ループ」の建設が予定されています。アメリカのHyperloop One 社がドバイなどに建設中のこのハイパー・ループを、今度はフィンランドに建設し、隣国スウェーデンの首都ストックホルムと30分でつなぐことを計画しています。

2028年ごろ開業を目標に投資額およそ190億ユーロ。ヘルシンキからストックホルムまでのおよそ500km区間を1200km/hで運行予定です。

私が住んでいる南西部のトゥルク市もこのループが開通する予定で、そうなると今までバスで2時間、電車でおよそ1時間かけてヘルシンキへ行っていたのが、わずか10分ほどに。ストックホルムまでは飛行機でおよそ1時間、船でおよそ9時間のところ、わずか20分ほどに。カプセルに乗車し隣国へ通勤通学することも夢じゃなくなるようです。

■バルト海沿岸の物流網が変わるか?

このハイパー・ループとは別にフィンランド政府は、ヘルシンキとエストニアの首都タリンとの海底トンネル開通の検討を進めています。現在の調査では、タリン側の土壌が柔らかく、地下水に問題があるため難航中です。さらにトンネル建設と鉄道開業コストの40%以上がEUの資金でカバーする必要があり、この予算額についても再検討される予定です。

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こちらの投資額はおよそ130億ユーロ。現在4月から10月まで期間限定での船の運行でおよそ2時間かかるところが、開通すればこちらも30分。片道36ユーロで年間1100万人以上の輸送を見込んでいます。

さらにタリンと陸続きになるとその先のポーランドや中欧諸国にまで物流網が伸び、輸送距離がぐんと長くなります。結果、トラックなどの基準や規定は欧州仕様となるため、このトンネル建設にはEUからの資金をなんとしてでも確保しなければならないと、各関係者は口を揃えて言います。

何よりもフィンランドからロシア域内を通らず直接欧州大陸とつながることで、物流全体に変化が起きる可能性をすでに示唆している業界があります。デンマーク、オランダ、ドイツ、スウェーデンの海運会社です。彼らはすでにフィンランド企業などと連携して物流事業の拡大を狙っています。

ハイパー・ループはあと12年。海底トンネルは難航中なので目標2030年には間に合わないようですが、どちらにせよ、あと20年もすれば北欧と欧州大陸間の物流網が変わってくるでしょう。フィンランドは次の100年をめざして小国家としての意義を見出せるか。非常に楽しみです。

2017/01/16

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Terve! フィンランドの郵便配達不景気でサービス低下

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移住後のある日のこと。

夫「船便が届いたみたいだから、郵便局に取りに行こう」
私「え?自宅まで届けてくれないの?」
夫「そうだよ。フィンランドではEMS便以外の荷物は自分で取りに行くんだよ」
私「えーーっ?!40箱以上の荷物を毎回取りに行くのーー?!」

という会話が我が家で交わされたのを皮切りに、フィンランドの郵便にまつわる話は後を絶たないほど、郵便サービスは日本と異なります。

夫の返答の通りフィンランドに入ってくる郵便物は、EMSと封書サイズ以外は、「アライバル・ノーティス」が自宅ポストに投函され、それを持って郵便局へ荷物を引き取りに行きます。移住の際には40箱の段ボールを船便で送り、約3ヶ月かけてフィンランドに到着。順次アライバルノーティスが送られてくるたびに、トレーラーを牽引して郵便局まで引き取りに行きました。

■不景気で郵便サービスが低下

”Posti”と呼ばれるフィンランドの郵便局は、郵便局と大手スーパーやコンビニサイズの店舗のサービスカウンターが郵便サービスを担っています。フィンランドには日本のような宅配サービス業者がありませんので、すべてこのPostiのサービスを利用します。最近の不景気でPostiの従業員を大幅に解雇したこともあり、ここ数年の郵便サービスは低下しています。

昨年の11月ごろから年末にかけては、従業員が削減された原因で配達に手が回らず、主にSAL便の荷物が2-3ヶ月間空港に放置されるという事態が発生しました。今年に入ってからは、郵便局が次々と閉鎖され大手スーパーのサービスカウンターへ集約。また郵便料金も値上げされ、例えば日本までの料金はEMS便の2kg以下でなんと90ユーロ!およそ1万1千円!従業員もさることながら、われわれ利用者も不満が募っています。

■便利な自動預かり郵便ロッカー

とは言っても人口およそ550万人。もともと人的資源が少ないため、効率よく郵便物を受配達するために自動預かりロッカーサービスがあります。その名の通りロッカーに荷物を入れておくと、そこから荷物を引き取りに来て配達し、逆に荷物が到着するとロッカーに荷物を入れておいてくれるので引き取りに行きます。

荷物はすべてネットやスマホのアプリで追跡できるので、非常に便利です。今のところフィンランド国内とエストニア間のみのサービスですが、いつの日か利用してみたいと思います。

■手紙や荷物を出す楽しみ

インターネットが普及した現在でも、日本から遠く離れた国に住んでいると、手紙や荷物を送ったり届いたりするのは嬉しいものです。カードをはじめ荷物のパッケージのバリエーションが豊富なのは郵便サービスの目玉です。日本ほどではありませんが、季節や年によってデザインが変わるたびにそれを目当てに郵便局へ足を運んでいました。残念ながら最近では前述の通りサービスの低下でデザインの豊富さがなくなり、スーパーにサービスを集約されたところはそのような商品が一切なくなりました。

この季節のクリスマスは西欧文化にとっては一大イベント。クリスマスカードや切手の種類は例年通りに出揃いました。郵便料金が値上げされたり、デザインの豊富さがなくなっても、年中行事に参加するのはやはり楽しいものです。

そしてフィンランドといえば、サンタクロースですね。サンタさんへの手紙やサンタさんからのプレゼントは世界中の子どもたちへ無事に届けられているでしょうか。

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さて今年も残すところあとわずか。毎月お読みいただきありがとうございました。来年2017年はフィンランドの独立100周年の年です。不景気から脱出するためにビジネスにおいては重要な年になりそうです。

それでは皆さま、よいお年を!
Hyvää joulua ja Onnellista uutta vuotta!

2016/12/25

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Terve! 英語も公用語に近いフィンランドの言語事情

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昔船会社で働いていたときに英語が公用語であるにもかかわらず、現地語で書かれたメールが来た時には、驚きながらも興味のある言語は辞書を片手に調べていました。

一番多かったのはスペイン語。簡単な現地語で返信すると、「Amigo!」(おぉ、友よ!)なんて返事が来て、トラブルシューティングを手伝ってくれた記憶があります。

さて現在私が住んでいるフィンランド。何語が公用語だと思いますか?
答えは、フィンランド語とスウェーデン語。

過去にスウェーデン王国に支配されていた歴史から、人口のおよそ5.5%のスウェーデン系フィンランド人が、スウェーデン語を原語として暮らしています。首都や地方都市の街中の標識はこの二言語で、上段がフィンランド語が表示されます。また、おなじみムーミンの生みの親であるトーヴェ・ヤンソン氏も、スウェーデン系フィンランド人です。

【世界一難解な言語】

ではフィンランド語と聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか?
インド・ヨーロッパ言語である英語と異なるウラル語族に属し、フィンランド以外では、エストニアやロシア西部などの地域でも話されている言語です。

実際にフィンランド語とはどのようなものでしょうか?

”Hyvää Huomenta”
「おはようございます」
”Mitä kuulu?” 
「お元気ですか?」
”Menen toimistoon jokapäiväistä”
「私は毎日会社へ行きます」

英語に親しんでいる方々からすると、発音や文法のイメージが全く湧かないと思います。私自身もそうでした。

以前、語学学校に通っている時に、イギリス人やスペイン人が口を揃えて「フィンランド語は世界一難しい言葉だ」と連呼していました。それを裏付けるかのように、特に英語話者には習得に時間がかかる言語という調査結果が出ています。

【習得に時間がかかる、つまり難しいとされる理由は】

・インド・ヨーロッパ言語との共通点がない(日本人にとっては、発音はカタカナ読み、主語なし、語順が自由、冠詞がない、というやや共通点があります)
・15個の格変化があり、語尾の違いによって意味が変わる
・男女の性別を指す「彼」「彼女」がなく、”Hän”だけで第三者を示す

特に15個の格変化は、フィンランド語習得者にとって非常に高い壁。私自身も語尾の変化にはいつも格闘し、ときにその部分だけ小声になる状況です。

【英語を巧みに操るフィンランド人】

さてフィンランド語の話者の数は、単純に数えてフィンランド人口のおよそ550万人。これに他国の習得者などを含めても1000万人に満たないでしょう。よって国際社会で生きていくためには、国際的な公用語である英語を身につけることが必須であり、小学校から英語教育が始まります。

教育といっても、娯楽や身の回りのものを使って楽しく学ぶといったものです。映画や漫画などの輸入ものは英語原語のままで放映され、字幕としてフィンランド語が流れます。英語の本も本屋や図書館にかなりの数が揃っているため、英語は身近な存在。実際、英語の習得方法で一番多かったのは、テレビや音楽といった娯楽ものでした。

そのような環境下で育ったビジネスマンにおいては、普段の仕事の中で母国語と同じように英語を使っています。近隣諸国の小国家の参加者たちが集う会議は、もちろん英語。私のような外国人が来ると今までフィンランド語で話していたところ、すぐに英語へ切り替えますし、書類やプレゼン資料を英語で作成しても母国語でスピーチしたり(この逆も然り)と、彼らの英語の操り具合は見事なものです。

医師や教師などは当然英語を話しますし、公的機関はビジネス関係だと英語で対応してくれるところもあります。商業施設でもちょっとフィンランド語がわからなくなると、英語へ切り替えてくれるスタッフも多いです。実際、全年齢層の50% 以上はほどほどに英語ができるという調査結果もあります。

ちなみにスウェーデン語については、小学校に入学すると、国語としてフィンランド語かスウェーデン語のいずれかを学ぶことになっています。

そんなわけで、フィンランドでのコミュニケーションは英語でも十分通じますが、現地語でコミュニケーションを取るとさらにその土地や現地人のことを理解できるのは、語学習得者の醍醐味。冒頭の過去の出来事を回想しながら、フィンランド語習得のモチベーションを高めている今日この頃です。

2016/11/4

海外だより:フィンランドより一覧

Terve! 北国の小国家フィンランドとは?

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出典元:http://vuodenajatvalokuvin.blogspot.jp/2010/09/soutaja.ht.

はじめまして。フィンランドに在住の藤原斗希子と申します。
今回からフィンランドのビジネスにまつわるコラムをお届けします。どうぞよろしくお願いします。

フィンランドは、日本における近年の「北欧ブーム」で、身近な国となってきたと思います。

実際、日本からの直行便で約10時間。日本に最も近い欧州と言われ、大帝国ロシアを挟んで日本とフィンランドは「ご近所さん」なんて言われることもあります。

国土面積はほぼ日本と同じですが(およそ34万km2)、人口は日本のおよそ20分の1の550万人。北海道の気候と人口が日本全国に広がっている、とイメージすると現実に少し近いかもしれません。

国土のおよそ3分の1が北極圏であることから、北部では夏の間は日が沈まない「白夜」や、冬の間は逆に日が昇らない「極夜」が訪れます。現在はサマータイム期間ですが、10月の最終日曜日を境に冬時間へと変わります。その後は弱々しい太陽が数時間だけ顔出すだけの暗黒の世界となり、ビタミンD不足などでうつ病にかかる人が多くなります。国民的な病気と言われているため、こうした気候条件の中で生活していくのはかなり厳しいものだと実感しています。

このような気候条件下の小国家ですが、先進国の中での存在感は大きいです。

OECDなど諸々の指標ではトップクラスにランクインしています。「世界一の教育大国」「世界一幸せなお母さん」「生活の満足度の高さ」など、福祉国家に対する評価が表れています。

■ビジネスは「イノベーション」と「テクノロジー」が鍵

ビジネスにおいては「ノキア」を代表する「革命的そして革新的な」ビジネスが強みです。テクノロジーは彼らが最も得意とするところで、この二つを組み合わせて「スタート・アップ」を巻き起こすのが最近の主流。

ヘルシンキ発のスタートアップ「Slush」が世界的に知られてきているように、ベンチャー・ビジネスの文化が浸透しています。

しかしここ5,6年は経済不況の真っ只中。失業対策を打って出るも、これといった解決策にはならず。2015年に約3万人の難民を受け入れた際には、「自国民の失業問題を先に解決しろ」と難民受け入れの反対デモが繰り広げられるほど、深刻な問題となっています。

夏のサマージョブで一時的に失業率は下がりましたが(7.8%:2016年7月統計)、今年の平均失業率はおよそ9%。特に高学歴の若者の失業率は高く、また地域によっては数年間全く雇用がないところもあります。小国家の生き残りをかけた景気回復には、あと数年かかると言われています。

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出典元:http://www.mannlines.ee/309eng.html

■海運事業で不況を脱出できるか?

さて、私が住む南西部の古都トゥルク市は、港湾都市です。客船ターミナルと老舗の造船会社「Meyer Turku社」があり、ここでも「イノベーション」と「テクノロジー」をキーワードに次世代のクルーズを提供しています。

それを象徴するかのように、つい先日、「グリーン・クルーズ」をテーマにした大型LNG客船2隻の建設を受注し、多数の雇用を生み出すというニュースが飛び込んできました。

リリース予定は2020年から2022年。今後数年間の雇用がここで確保できると、地元ならず国内の海運業界では高調でした。

フィンランドの港湾といえば、ヘルシンキ港の国際ターミナルが世界的に知られていますが、実はこのトゥルク港や欧州主要港の接続港としてのコトゥカ港も、重要な港湾都市として栄えています。人的資源や自然資源が乏しいため、バルト海を中心とした貿易が昔から盛んで、南部を中心に海運事業が発達しています。

ということで、今回はフィンランドの概略を簡単にご紹介しました。
次回以降は、フィンランドの基本情報とともに具体的なビジネスにまつわる話しをお伝えしていきます。

2016/09/21

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