あるワークショップで貿易決済に関する質問が有りました。「送金決済に手形を付けてやっている。これで良いのか?」とのこと。手形はL/C決済などに使うのであって送金決済に使うのは変だ。こういう疑問が湧いてきたそうです。銀行は送金決済では書類に一切関与しません。今回はこの問題を少しひもといてみます。|送金決済に手形は必要か?

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公開日:2018.11.03

送金決済に手形は必要か?

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普段講師をしているワークショップがあります。

ここの出席者から、貿易決済に関する質問が有りました。

「送金決済に手形を付けてやっている。これで良いのか?」

こんな質問です。

この担当者は自分の貿易知識では、手形はL/C決済などに使う物であって、送金決済に使うのは変だ。

こういう疑問が湧いてきたそうです。

自分で本やネットで調べても、さっぱり分からなかったとのこと。こんな質問を聞いて、なるほど銀行を介せずに、手形がこんな形で使われているのだ。と逆に感心してしまいました。貿易実務ご担当ならご存じのように、銀行は送金決済では書類に一切関与しません。顧客から送金依頼を受けるだけです。なのでこんな事態を、意識したこともありませんでした。

しかしよく考えれば疑問は尤もです。おそらくネットを探しても解答は出てないと思います。どこが問題なのか分からないままです。そこで今回はこの問題を少しひもといてみます。

まず案件の概要です。
台湾からの輸入で支払条件は、T/T60days after B/L dateとのこと。つまり決済は、船積日から60日後までの電信送金で行われます。輸入者は台湾からの船荷証券を、船会社に提出し貨物を受け取ります。問題はこの船荷証券を含む船積書類に、Bill of Exchange(荷為替手形)が入っていることです。

日本側ではこれにサインをして、台湾に返送していると言うのです。長年の信頼関係から手形のやり取りをしているそうですが、何のための手形かと思い台湾側へも照会してみても、先方からの返事では、銀行出身の社長からの指示というだけで、
具体的には何も明らかにならなかったようです。

そこで私はこのやり取りは、輸入者側にメリットなく見直した方が良い。とアドバイスしました。なぜそうアドバイスしたのか。

以下はその理由です。

1.手形債権は、原因債権(ここでは輸入債権)とは別個独立のものです。手形があると台湾側は、手形債権からも原因債権からも求償できます。つまり日本側には、二重の縛りが掛かられているのです。
2.手形なら期日に決済されなければ、即日求償できます。督促とか催告は不要です。
3.支払地の法律にもよりますが訴訟になった場合は、日本では簡易な方法が定められています。例えば裁判は1回で済みまJす。しかも書面審査だけです。判決が出ればそこには仮執行宣言が付いていますので、実力行使に出ることが即日可能です。

このように手形があると台湾側は有利なので、日本側としては、見直し要求は大いにありです。この会社も早速、台湾側に申し入れをしたようです。

その後の顛末はまだ聞いてませんが、皆さんの中にも、似たような状況の方もあるのではと思い、ここに書いてみました。ご参考になれば幸いです。

2018/11/03

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