なぜ銀行は相場優遇を渋るのか。実はこれへの答えは簡単明快です。儲かるからです。具体的に例を挙げて見てみましょう。月商10百万円ほどの輸出業者があったとします。通貨は米ドル建て。輸出代金の決済方法は100%送金決済。回収金はそのまま円転。|銀行はなぜ相場優遇を渋るのか

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公開日:2020.11.23  / 最終更新日:2022.10.20

銀行はなぜ相場優遇を渋るのか

為替の相場優遇

過去のコラムで、銀行からの相場優遇の獲得方法をお話ししました。今回はなぜ銀行は相場優遇を渋るのか。この点をお話しします。

なお相場優遇のことをレート・サービスと呼ぶ人も居ますが、銀行側のスタンスでは為替相場は銀行が定めたものであり、優遇は顧客取引深耕のため、やむを得ない場合にすると考えています。結局レート・サービスと同じ事なのですが、銀行は相場優遇としますので、本稿でも相場優遇を使いたいと思います。
さてなぜ銀行が外為収益に執着するのか。

実はこれへの答えは簡単明快なのです。大変に儲かるからです。具体的に例を挙げて見てみましょう。月商10百万円ほどの輸出業者が有ったとします。通貨は米ドル建て。輸出代金の決済方法は100%送金決済。回収金はそのまま円転(円転とは外貨を円貨に交換することです)。また1米ドル=100円とします

この条件で銀行収益を見てみます。先ずUSDベースの貿易為替量を計算します。月10百万円を米ドルに換算して12倍します。計算式:10百万円÷100円X12ヶ月=USD1.2百万/年、年商1億円強なので、法人管理先としは一番小さい部類です(与信先はこれより小さくても個社で管理します)。

次に収益を見てみます。資金決済は被仕向送金なので、海外から入ってきた米ドルを円に交換する際に発生する為替売買益が銀行収益となります。これが1円/ドルです。計算式:USD1.2百万X1円=1.2百万円、これは大きいです。実はあんまり大きな声では言えませんが、新規顧客を獲得する場合、半年間の実績として、貿易為替10万米ドル又は外為収益10万円を基準にする場合が多いようです。これと比較すれば120万ドルと120万円は大きな数字です。

しかし相場を優遇してしまうと状況は一変します。一部の大手企業には99%優遇が存在します。これは1米ドルについて0.01円が収益となる計算です。つまり本件の事例で言えば取扱高は変わらないのに、収益は12千円に激減するのです。これでは銀行は自ら相場優遇を持ちかけません。普通は。しかも銀行が、外為に固執するのはその収益力の高さです。国内の一般融資でスプレッドを1%確保出来たとして、同金額の収益を挙げるためには120百万円の投入が必要です。

このような億を超える与信実行には、それなりに与信判断が必要です。取引したいと言われても二つ返事で「ハイ」とは行きません。しかし本件のような被仕向送金は、単に海外からの入金を待てば良く、何の与信も要しません。到着資金を円転するだけです。

こうして外為収益が計上されます。こんな状況なので銀行は外為獲得に血眼になりますし、虎の子の外為収益が減りかねない、相場優遇を渋るわけです。今回は銀行が外為優遇を渋るわけをお話ししました。

2020/11/23

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