過去本欄でインコタームズのお話しを何度かしました。
外為にはインコタームズの知識は必須ではない。ただし船積書類を扱うドキュメンタリー担当者には、インコタームズの知識は有益であると述べてきました。
今回はこの流れでお話をしようと思います。我々はお客様から貿易に関するご質問を良く受けます。外為担当者は外為の専門家であって貿易の専門家では無いのですが、大切なお客様からのお問い合わせです。出来る限り丁寧な回答を心掛けています。(これ本当です)
その中に「なぜ銀行ではコンテナ輸送の場合に、FOBやCFRは止めた方が良い。」と言うのか。こんな質問があります。勿論一義的な回答は、インコタームズにその旨記載が有るからなのですが、しかし重ねて「インコタームズは守らなければならないのか。」「守らないと何か不都合があるのか。」このようなご指摘も受けます。
確かにインコタームズは法律ではありませんので、守らないからと言って罰則が適用されるわけはありません。そこで出来れば止めた方が良い例としてお出ししていたのが、コンテナヤードでのコンテナ罹災です。
殆どのお客様はコンテナヤードに貨物が搬入されれば、それで自社としての輸出は終了と考えます。確かに何もなければそれで問題はありません。しかし天災によってコンテナが罹災した場合はどうでしょうか。
FOBやCFRの場合は輸入者側が海上保険を掛けていても、その保険が効力を持つのは貨物が本船に積み込まれた後のことです。つまりコンテナヤードにある間は無保険状態となっているのです。しかもそこでのリスク負担は輸出者にあります。これは看過できません。そこで用いられるのが「輸出FOB保険」です。
この保険は「内航貨物海上保険」の一種です。この保険は輸入者にリスク負担が移転していない時点での、貨物事故発生に伴う損害を補償する保険です。この保険を掛けておけば通常であれば、何らかの損害が発生した時に、保険会社が損害を補償してくれることになります。台風による損害もこれでカバーされることになります。
ここまでお話しするとお客様から「じゃあそれで行こう。」となるのですが、実はこの保険ではカバーされない部分があるのです。それが地震・噴火とそれに関連する津波・火災による損害です。輸出FOB保険ではこれらを保険金支払対象から外しているのです。
阪神大震災や東日本大震災でのコンテナヤードでのコンテナ被害は、たとえ輸出FOB保険を掛けていても損害カバーはされなかったのです。つまりFOBやCFR条件で輸出する場合には、輸出者側にこのようなリスクが残ることになるのです。
このような事情でFOB・CFRはお勧めしないというお話になるのです。なお同系列のCIFでは本船積込前の段階から保険を掛けますので、このような問題は起きないことになります。
またFCAやCPTのようにコンテナ輸送をも含む貿易条件であれば、リスク移転時期が運送人への貨物引渡し時点となりますので、コンテナヤード上の貨物リスクは、輸入者に移転済と言えるのです。
2021/01/15