決済時点で発生する為替リスクをどうするかの対処法は企業の永続的なテーマです。銀行の外為担当は顧客企業からこのような相談を受けます。しかし正直言って先物為替予約関連以外は銀行にメリットがありません。ゆえに教科書的な説明に止まってしまいます。 |「為替リスクヘッジ」他社の状況は?

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公開日:2021.08.26  / 最終更新日:2022.10.20

「為替リスクヘッジ」他社の状況は?

為替がダウンするリスク

最近ある論文が目にとまり、そこに興味深い記述が有りました。今回はそのご紹介をしてみたいと思います。

貿易担当者にとって決済代金の通貨を何にするか、どのような方法で決済するかは大変悩ましいことです。もちろん輸出であれ輸入であれ100%日本円で決済できれば、このような悩みは全くないと言えます。しかし実際は、そんな奇跡的な話は存在しないと思います。

そこで決済時点で発生する為替リスクをどうするかが、この対処法が企業として必須の永続的なテーマとなってきます。我々外為担当は顧客企業からこのような相談を受けたときには、先物為替予約をメインとした幾つかの対策をお話しします。しかし正直言って先物為替予約関連以外は、銀行にメリットが余りありません。そんなことから他の対策は、教科書的な説明に止まってしまいます。

また同時によく出るのが、「他社(よそ)さんはどうでしょうか?」です。こっちとしては「他社動向は気になるのだなあ」と思いながらも、具体的な数字が手元にあるわけでも無いので、「予約する人が多いみたいです」と当たり障りのない話をします。

今回ご紹介する論文はこの漠然とした銀行員のヘボ解答に、一定の解決法を提示してくれるものといえます。

さてこの調査論文ですが、発表したのは独立法人経済産業研究所です。2017年11月現在の数字を基に2018年9月に発表されました。(但しこの論文はあくまでも執筆者の見解を示すものであり、同研究所の見解を示すものでは無いとの注が付いています。)

この論文の調査対象は日本の上場企業(製造業)から、貿易取引があると思われる1,006社にアンケートを送付し、回答を得た151社を分析したものです。(項目によって社数は減少)

まず気になる為替リスクヘッジ策で「先物為替予約」の利用状況ですが、98.2%の企業が利用していると回答しています。これはほぼ全社とも言える数字です。銀行としても顧客企業から照会があれば、まず先物為替予約をお勧めするという方法が、大筋では間違っていないと言える数字だと思います。

それ以外の方法では通貨オプションが12.6%、為替関連デリバティブが約7.2%でした。(複数採用している企業があるので総和は100%になりません)

この2者に関しては銀行も顧客企業の理解状況や社内体制を見て、お勧めするので納得感があります。その他ではマリー(自社内で外貨債権を外貨債務に充当)や、ネッティング(自社内で相殺勘定を起こす)が留意されます。
マリー・ネッティングは導入企業と非導入企業は約4:6の割合でした。

この2者は企業規模が大きいと導入メリットが上がるため、大企業の方が、多く導入しているという数字が出ています。ただ同一企業内の本支店間では企業規模を問わず、導入企業が7割を越えており、それなりの数字となっています。

以上、ほんのさわりの部分ですが為替リスクヘッジについてでした。為替リスクヘッジに妙案はありません。先物為替予約を中心にして、自社の特性に応じた策を組み合わせる。こう言った合わせ技が引き続き対策としては有効と思われます。

2021/08/26

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